少女と青年





少女が忍び足で目指すは、このお屋敷で一番大きな部屋。

このお屋敷の主の部屋だ。




長い長い廊下を歩いていくと、ようやく一つの扉が見えてくる。


少しの力で押してもびくともしないのを知っている少女は、最初からめいいっぱいの力で押す。


扉は何の音もせずにゆっくりと開いた。





少女の目の前に趣味のいい広い部屋が広がる。どんどん奥へ進んでいくと、さっきのよりは小さな扉が。


その扉の奥の部屋へ滑り込むと、そこは寝室だった。



大きなベッドを中心に穏やかな空気が流れ、心地よい静寂に包まれている。



そのベッドの真ん中に、ふかふかすぎて埋もれながらも、気持ちよさそうに眠っている青年。



かわいいなぁ


少女の顔に自然と笑みがこぼれてくる。





「んぅ…」



不意に青年がゴロンと寝がいりをうって被っていた布団がめくれた。


風邪引くよ、とお母さん気分で掛け直そうと手を伸ばす。

が、その手は布団につく前に、何かに掴まれ、



「えっ!?…わぁっ!」



いきなり視界が回って、きつく目を閉じる。



落ちたところはふかふかで何の衝撃もなく、さらにフワッと何かの香りが鼻孔をくすぐった。

少女の大好きなあの人の香りだ。




「お帰り、菜乃佳」



まだ寝起きの、柔らかい声がきこえて、ゆっくりと目を開けると、目の前には笑っている青年の顔。



「…ただいま!ツナ」



引き込まれたベッドの上、青年の腕の中で、嬉しそうに笑う少女は、青年に抱き付いた。




「起きてたの、ツナ?」

「んや、今起きた」

「ふふふ〜☆」

「何?」

「菜乃佳パワーだね!」



へへん、と少女は得意げな顔をして。



「はいはい」



適当にあしらいながら、青年はまた寝る準備をする。今度は少女も寝られるように。



「ほら、俺明日も早いからもう寝るよ」

「はーい……ねぇツナ、明日話さなきゃいけないことがあるから聞いてね?」

「?…うん」



不思議そうに首を傾げながらも、返事をして目を閉じた。




数分後、部屋には二人分の寝息だけが響くようになった。






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