引っ越し前日





「ただいまー」


本邸の中に入るとスーツの上着を脱ぎ、メイドに渡す。


「おかえりー」


と、パタパタと菜乃佳が駆け寄ってきた。


「みんな元気だったー?」

「スクアーロとベルにしか会えなかったけどみんな怪我とかはしてないみたいだよ」

「よかった
最近ヴァリアーばっかり闘ってるみただから心配してたんだ」


ほっと菜乃佳が息を吐く。
そんな姿が微笑ましくて、菜乃佳の頭を軽く撫でた。

菜乃佳が嬉しそうに目を細める。


「…もう準備できたの?」

「うん
ツナは終わった?」

「終わったよ」

「じゃあ一緒に居てい?」

「…菜乃佳、」

「ん?…わっ」


上目遣いで首を傾げてくる菜乃佳を包むように抱きしめた。

まだメイドがちらほら居るけど、この際もう仕方がない!

菜乃佳がかわいいのがダメなんだっ!


「菜乃佳ー」

「なぁにー?」

「菜乃佳ー」

「はーい?」

「菜乃佳ー」

「ツナー」

何回呼んでもちゃんと反応してくれる菜乃佳に俺は吹き出した。


「えっ!?
なにっ、何で笑ってるの?
名前を呼び返して欲しいんだと思ったんだけど…」


また吹き出す。

俺が何回も呼ぶのは返事とか呼び返して欲しいとかじゃなくて遊んでるだけなのに。


真面目に返してくれる菜乃佳が、
ただ愛しくて仕方ない。




「…菜乃佳
俺の部屋行こっか」

「うん」


そして俺は、菜乃佳を腕から解放して小さい手を握った。

















「明日出発だね」


菜乃佳がベットに腰掛けながら言う。


「うん」

「…しばらくこの屋敷とはバイバイだね
早く帰ってこないとベルとかが俺の物ーとか言いそう」


ついさっき同じようなことをベルが言っていたのを思い出してびっくりした。


「それ、ほんとに言ってたよ」

「うそっ!?」

「ほんと」

「うわー
菜乃佳、ベルの思考回路が分かってきた…」


そのあとも、ずっとベルのことやスクアーロのことなど、菜乃佳が話してくるから、


「菜乃佳、」

「なぁに?」


ベットに押し倒してやった。


「ツナっ!?」

「なに」

「何で機嫌わるいの」

「悪くない」

「えっ、絶対悪いじゃ…」


顔をほんのり染めて照れ隠しのように喋る菜乃佳の口をふさいで黙らせる。

菜乃佳の甘い甘い香りがして、止まらない。

何回も口を離してはまたくっつけて、舌を差し入れれば菜乃佳が少し身じろいで。


「…ふっ…ぅ…」


結構手加減してるのに、目をそっと開ければとろけそうな菜乃佳の顔。


「俺と居るのに他の男の話しばっかりしてるからだよ」

「そ…」


また、喋ろうとするのを口をふさいで遮る。


そのまま二人、じゃれつきながら眠った。

たまにはこんな日もいい。



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