「あれ、イクさんは」
「うん。学科のお仕事があるんだって」
「そうなんですか……」
 セリアの視線を追うように、かれんも校舎に目をやる。ちょうど廊下を歩く礇の姿が見えて、すぐに階段の向こうへ見えなくなった。どこかでドアが開く音がする。
「それよりね、セリちゃん。今は授業中よ?」
 あっ、と口元に手をやるしぐさがおかしくて、かれんは目を細めた。いつの間にか脇に置いていた本を、膝の上に戻す。
「セリちゃんは、恋をしてる?」
「ええ、なんですか急に、あの、その」
「幸せ?」
 まっすぐに見つめてくるかれんの目を見て、セリアは落ち着きなく動かしていた手をおろす。困ったように口を閉じて俯いた。両手の指を組み合わせたり、円を描いてみたりしたあと、僅かに視線を上げる。
「えっと、すごく胸が苦しくて、すごく、悲しくなっちゃいますけど」
 一度言葉を切ると、右に左にと視線を泳がせる。それから恥ずかしそうに笑ってみせた。
「でも同じくらい、すっごく幸せで楽しいです」
「そっか」
 微笑んで、かれんは本の表紙に目を落とす。タイトルと、変わった衣服を纏った女性の絵が描いてあった。どこか憂えるようなその顔をしばらく眺めた後、よし、と小さく呟いて勢いよく立ちあがる。
「セリちゃん、ケーキとか食べたくない?」
「食べたいです!」
「じゃあ、食べに行っちゃおう。奢っちゃおうかな?」
 かれんが先に立って歩き出すと、慌てたようにセリアがついてくる。雲が一度太陽を覆って、二人の足元を風が抜けていった。

―end―

水無月様:たわごと




初めてうちの子で書いて頂いた作品です。
いっくんとかれん、セリアで書いて下さいました。
ちょっと切ない系です。いっくんが凄くイケメンです…うおお
しっかり砂子要素も取り入れて頂けて嬉しいです。
素敵なSSありがとうございました!



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