溜め息とチョコレート
壁に掛かったカレンダーを見て、ふうは溜め息をついた。
二月に入り、その日は刻々と近付いている。憂鬱でしかないから出来る限り思い出さないようにしていたのに、一週間を切った辺りから憂いは嫌でも増した。
「もう二月ねェ、鳥越」
「十四日、もうすぐだな!」
そう言って目を輝かせる二人に、何度冷ややかな視線を送ったことか。最近ではそれすらも面倒になって完全に無視を決め込んでいた。
それでも二人の猛アピールは止むどころか日に日に激しくなっていった。ついさっきも互いを牽制しあっていたくらいだ。
「そんなに欲しいのかしら、チョコレート」
呆れたように呟いて二度目の溜め息をつく。チョコレートではなく、貰う相手に価値があるという事実には気付かないままで。
「一口チョコ……でもいいのかな」
もしくは板チョコとか。
少しだけ想像してみる。……たとえそれでも舞い上がる二人の姿が容易に浮かんだ。
三度目の溜め息。
「これ、鳥越からなのよォ」
「どうだ愛情たっぷりだろ!」
そうやって周囲に見せびらかさないとも限らない。苦笑と哀れみの対象になるのは勝手だし自業自得ではあるけれども、胸が痛まない訳じゃない。それに――。
もう何度目の溜め息だったか。
半ば無意識に目の前のスケッチブックに鉛筆を走らせる。気が付けば見覚えのある笑顔が目の前に現れていた。
「……明日、チョコレートでも見てこようかな」
それに、どうせみるなら最高の笑顔の方がいいに決まっている。
とん、と鉛筆で机を叩き、立ち上がる。そうと決まればさっさと準備をしてしまおう。どこか吹っ切れた顔で、ふうは口元に笑みを刻んだ。
――そして、十四日の朝には、二枚の似顔絵と二つの小さな包みが並んでいた。
-------end
和泉さまより
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