* * *
「ん……?」
ゆっくりと目を開けたカザハは、今の自分の状況を把握するのに多少の時間を要した。
調べ物を中断し、ソファーでお茶を飲み、ちょっと目を閉じて、そして――。
そこからの記憶がない。一体何故、と考えながら視線を上げると、本棚の影からひょっこりとカズキが顔を出した。
「お、目、覚めたか」
両手いっぱいに本やファイルを抱えながら歩いてくるカズキに、カザハは視線だけで説明を促す。
「お前、疲れてるんだろ。目閉じて三秒で寝息立ててたし」
「…………」
珍しく、カザハは口を噤んだ。
何となくわかってはいた。先程の視界の揺らぎもカズキのせいではなく目眩で、きっと溜まった疲労のせい。
認めたくはないが自覚はあったことを指摘されたのがカズキである。そのことが何となく面白くなかった。
「とにかく、必要な資料ってこれだろ? 集めといたから続けるならここでな」
そう言いながら、カザハの目の前のローテーブルにどさりと手にしたファイルを載せる。やめろ、とは言わないのは、長い付き合いの幼なじみが簡単に折れないことを知っているから。
「……珍しく気が利くじゃない。そうするわ」
ファイルの一冊を手に取り、カザハはソファーに背を預けた。パラリとページを捲りながら、スッと本棚を指で示す。
珍しく誉められたことに一瞬驚き、次いで満足げな笑みを浮かべていたカズキは、その指の示す先を追って振り返った。そして、続けられた言葉に、がっくりと肩を落とすこととなる。
「一冊足りないわ、愚か者」
END
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和泉様:Silver Snow
カザハと和のやり取りを書いて下さいました!
どうしてこんなに私のイメージそのままに動かして下さるのか……和泉さん凄いです!
まさに光景が目に浮かぶようです。
素敵なお話ありがとうございました!
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