睫毛の影が頬に落ちているのを見て、眼についてしまいそうだとぼんやり思う。陽光に透けてきらきらと光る紅茶色の前髪を人差し指で払ってやると、くすぐったそうに口元を緩めた。淡いピンク色の唇が微かに動いて紡ぐ音の無い言葉は、耳に届く筈も無く空に溶けて消えてしまったけれど。
それでも"呼ばれた"のだと感じるのは
都合の良い妄想なのだろうか。
君の心の中に少しでも僕が居るという
"夢の様"な。
「……まいったな」
嬉しい。
無意識に漏れてしまった声に反応してか、彼女の目蓋が震える。しまった、と自分への舌打ちを堪え、左手をずらして普段よりも赤味が増しているであろう頬を出来るだけ覆った。何もかもを見透かしてしまいそうなルビー色の前ではこんな隠蔽等役に立ちはしないだろうが、あがく意志だけは示しておきたい。
そういくらもしない内に開いた眼に映る自分の影に苦く笑ってみせると、それはゆっくりとした瞬きを1度。彼女はまどろみと理解不能が混じった表情を極上の笑みで溶かすと、自身の作った菓子より遥かに甘く囁いた。
「……カザハ、来たのかな?」
悪気なく笑うかれんから手鏡を借りて自分の顔を見た後、ちょっとした"戦争の様なもの"が始まるまで――あと少し。
ーendー
名度様:無人工場
名度さんの西洋風グロ作品、『ジャミラのきずあと』のキャラクターデザインをさせて頂いた際に書いて下さったSSです。
アサヒとかれんでほのぼの日常風景、とお願いしたのですが何とニヨニヨ…!
ミステリアスから可愛いものまで、この守備範囲の広さに驚きを隠せません。
素敵なSSありがとうございました!
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