「にゃん」と言え
拝啓、皆々様お元気ですか。


俺はシャイニング事務所からアイドルデビューを見事に果たし、初仕事でもある、事務所の宣材写真の撮影に入った所だ。



「よろしくお願いします!!!」


勢いよく、現場の扉を開け、まずは挨拶。

いざ、俺様の初舞台!!!一礼してからワクワクしながら顔を上げた。


そこには何とも異様…いやいやいや!!!、イメージとあまりにも違うセットがあった。




かっこいいセットが良かったなぁ…さっきレンのセット見たけど、すっげぇかっこ良くて、自分もそんな感じをイメージしていた。




くっそぅ…でも、自分を魅せるためにはまず自分の長所を生かすべきだよな、学生の時だって、女装アイドルまでしたんだぞ…!?
それに比べたらこの可愛らしい…あぁ、自分で言ってなんか凹んだ…セットの中で俺様のカッコイイ男の魅力を引き出してやる!!!!!



グッと拳を握りしめて誓っていると、後ろから声をかけられた。




「初めまして、カメラマンの苗字名前です。」


「女…?」


「ん〜?何?女がカメラマンじゃご不満?」


髪をまとめてナチュラルメイク、パンツスタイルの似合うサバサバした感じ。


俺の中では好印象。



「いえ、すみません。さっきレンの時は男性カメラマンだったので、つい。」


「なるほどね。じゃ、さっそくだけど、着替えてきてくれたのに追加して、アクセントになるアイテムをつけてくださーい。」


「アイテム・・・?」



***********



「だぁぁぁぁぁあああああああああいーーーやーーーだーーーー!!!」


「新人の癖に文句言わない!」


「文句じゃねぇ!宣材写真にコスプレさせんな!」


「コスプレ馬鹿にすんなし!!!てゆうか、私が翔君のために一番似合うもの用意してきたんだからつけなさいよ!」



「お前、変態か!」



雲行きが怪しい…いや、嵐の渦中だ。


渡されたものは猫耳、しっぽ。









パチンと指を鳴らすとどこからともなく黒子が現れ俺を羽交い絞めにし、耳としっぽをつける。
こいつは一体何者なのか。。。さすがシャイニング事務所専属のカメラマン…女と言えどあなどれない。




くそ・・・こうなったら絶対やり遂げてみせる!!!!!!!!!!!




俺はプロとして、アイドルとして、できる限り頑張った。
名前さんもノリノリで…汗…シャッターをきっている。


「翔君いいよ〜!うん!可愛い!!」


もうこの際可愛いって言われようがやってやる。



「はい!じゃぁ翔君!!!猫っぽく、「にゃん」って喋って〜!」





「だーーーーーーーーーーマテマテマテ。何でそうなる」


「いいなさいよ!猫ちゃんなんだから!」

「意味わかんねぇよ。静止画で俺が「にゃん」っていうメリットは一体何なのか5文字以内で答えやがれ」




「可愛いから!!!!!」



「一文字オーバーしたから却下だ却下!!!!!!!!!」



「細かいこと言ってるといい男になれないぞ〜」



「んな!!?」




「龍也さんは私の方が年下でもちゃんと私をプロとして見てくれて、ちゃんと仕事を果たしていい仕上がりになりましたけど。」



「(くっそぉ〜〜〜)・・・・・・・」







「・・・にゃん。」


「きゃ〜〜〜〜!!!かうゎいい〜〜〜〜!!!」




たぶん、茹蛸くらい俺の顔は恥ずかしさで真っ赤だ。

そんな俺を無視してシャッターをきり続けるこの女…本当に恐るべし。


―――――――――――――


那月と同じ匂いがする彼女が撮った写真が公表されると、瞬く間にスケジュールが埋め尽くされた。「あの写真の彼を是非使いたい」とのことだった。


スタジオ内を移動して、次の仕事に向かうと、大きな機材を華奢な体でせっせと運んでいる彼女を見つけた。

目が合うとぱぁっと笑顔が広がって、俺のところに近づいてきた。



「あ!翔君。お疲れ様です。」


「名前さん…この前は本当、ありがとうございました!」


「いいえ〜。こちらこそ、一緒にお仕事できてとっても楽しかった♪」


「あの、俺新人の癖に色々言っちゃって…」


「翔君のそのビジュアルと中身のカッコよさのギャップ、すっごくいいよ!皆にいっぱい翔君の魅力が伝わるといいな!私、応援してるよ。」


「は、はい!///ありがとうございます!!!」


ヒラヒラと手を振って後にした彼女の後ろ姿を見送った俺は、彼女の言葉が心に響いて高鳴りが止まらなかった。

これが、彼女との出会い。


最悪だけど、最高の出会いだった。


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