ゾロは大きな欠伸をしながら私にどうして名前知ってんだ、と問い掛ける。


「いや、それは……」
「まァ、懸賞金もかかってるから手配書見れば分かるか」
「あ、あの!」
「ん?」


ゾロは漫画の世界のキャラクターだ、と言おうと思ったが、少し躊躇う。だって、そんなこと言われたらゾロはどう思うか…。


「………」
「何だよ、言いたいことはハッキリ言え」


その言葉を聞いた私は、本棚から漫画を取り出し、ゾロの目の前に置いた。


「何だよ、コレ…」
「あなたは漫画の中のキャラクターなの」


そう告げると、ゾロはぽかんと口を開けたまま漫画に目を落とす。


「う、嘘だろ…」
「自分の目で確かめてみれば……」


ゾロは漫画を手に取り、パラパラとめくっていく。少し悲しそうな表情になって仲間の名前を呼んだ。


「ルフィ、ナミ、ウソップ、クソコック、チョッパー、ロビン、フランキー、ブルック……」


私まで悲しくなり、ギュッと目を閉じて溢れそうになる涙を堪える。


「おれ、どうしたら戻れんだ?」


そう聞かれても私には分からない。大体、何でこっちに来れたのかも分からないのに。


「ごめん、私には分からないよ……」
「だろーな」


するとゾロは立ち上がり、玄関へ向かった。


「どこ行くの!?」
「とりあえず宿を探す」
「宿を探すって……、無理よ」


何でだよ、とゾロは私を見る。私はゆっくりとこの世界のことを話した。お金はベリーではなく円であること、ゾロが出ている漫画はこっちでは凄く人気なこと。


「わ、分かった……?」
「あァ。大体な」


ふぅ、と安堵のため息をついて、ふと思う。ってことは私がゾロの面倒見なきゃいけないんじゃない、と。


「よし、ゾロ!これからゾロの面倒は私がみる!」
「は!?」


突然の言葉に驚くゾロを余所に、私は準備をしようとするが、携帯が光っていることに気が付いた。


「あーっ!!仕事!」


ゾロを置いて行くのは心配だか、しょうがない。私はゾロに覗かないでね、と言って寝室で着替える。そして鞄を持ち、そそくさに玄関へ向かった。


「ゾロ、絶対にここに居てね!食べ物は冷蔵庫にあるから!」
「わーったよ」


それだけ言い残し、私は直ぐさま仕事場へ向かった。


▽20110611