携帯が鳴り響く。番号は非通知だったので、俺は出るか出ないか迷った結果、出てみることにした。ゆっくりと携帯を耳に近づける。


「もしもし?」


相手は病院からだった。どうして俺んとこなんかに病院から電話が来るのかが、さっぱり分からない。しかし、医者が放った言葉に一瞬で俺は凍りつく。


『君の彼女が病気により、今までの記憶が無くなってしまいました』


カコン、という携帯を落とした音がする。

嘘だろ……。

俺は直ぐさま病院へ向かった。夢であって欲しいと願いながら、ただひたすら走り続けた。
考えたことも無かった。俺の好きな人が突然記憶を無くすなんて。しかも、病気だったなんて。
1ヶ月前はいたって普通だった彼女。いつも一緒に居たのに俺は君の異変に気付きもしなかった。いや、気付けなかったんだ。



『正臣!』

『あれ欲しいなー』

『正臣なんて嫌い、…………嘘。大好き!』


君がこの時既に病気だったなんて。

病院に着いた俺は、彼女の病室を聞き、すぐ向かった。

ここだ……。

ドアを開けると、そこには今までの笑顔は消えてしまった彼女がボーッとしながら横になっていた。その周りには彼女の家族と医者。俺は軽くお辞儀をして彼女に近寄った。


「なぁ?俺のこと分かるよな……?」


そう彼女に問い掛けると、彼女はニコッと俺に微笑んでこう言った。


「あなたは誰?初めまして」


嗚呼、こんなことになるんだったら、もっと君に好きだと伝えておけば良かった。今、君の記憶の中には俺が居ないんだ。


君の記憶の中の俺


▽20110319