14


epilogue


 こいつほんとばかだな、と通話終了画面を眺めながらおもわずにはいられなかった。ばか、というよりは純粋すぎるのか。自分が裏切った可能性というのを、一ミリも疑っていない。
「おまえはほんと、昔から警戒心がたんねえよなあ」
 たまらず苦笑が零れた。
 小さいころからずっと、おかしな目つきをする輩から湊を守るのはおれの役目だった。あいつは気づいていなかったようだが、幼いころからずっとおとこからも熱い視線がたびたび注がれていたのだ。
――それなのに、おれが助けてやることができない野獣の園に自ら飛び込んでいきやがった。
 初めはもちろん心配した。だが、次に湧いてきたのは怒り。幼なじみ想いのおれのきもちなんて露知らず。
 三年間、おもいっきり腐男子ライフをエンジョイしてくる!
 と、いきいきした笑顔で地元を旅立った湊の顔は、今おもい出しても腹だたしくなる。
 おれはそのとき初めて、自分の脳みその出来のわるさを嘆いた。
 おれだって、腐男子ライフをエンジョイしたかった!
……おっと、つい本音が。
 しかし、湊から王道学園の話を聞くだけでも萌えたし楽しかった。だからまあ、長期休暇のときに戻ってくるならゆるしてやろうと寛大な心でひとり腐男子ライフを満喫しているやつの罪を流してやろうとおもっていたとき、あれを聞いたのだ。
――腐男子には、ある「呪い」が使えるのだという、うさんくさい話を。
 だが、呪いは実際に発動した。本物だと証明されれば――おれたちの目が輝かなかったはずがない。そしておれは、湊への罰をこれにしよう、とおもったのだ。
 実はあの学園には、湊以外にも知り合いがいる。夜に街を歩いていたとき、けんかをふっかけられて返り討ちにしてやったところ、なぜかそいつに懐かれたのだ。いかにもな不良のくせしてあの金持ち学校に通ってるというそのおとこを、おれが利用しない手はなかった。
 指示を出せばそいつはふしぎそうにしながらも命令をこなし、湊の下駄箱にマーガレットを入れた。もちろん、月のひかりを浴びさせ――といった諸々はおれがやった。そいつにはただ、湊のもとへ花を届けてもらっただけだから、呪いはちゃんとおれがかけたということになり、湊は教師たちから唐突にアプローチを受け始めたわけである。
 ほんとに彼氏をつくって報告してくるなんて展開は予想していなかったが、結果オーライだ。
 湊は次はおれの番だと言っていた。おれに言ったつもりではないのだろうが、おれからしたらそう捉えるしかない。
 だって、あいつに呪いをかけたのはおれなのだから。
 だが、おれは自分が呪いをかけられることなんてない、と楽観的に考えていた。
――その余裕が覆されたのは、湊に恋人ができてから一週間後。
 おれのもとには、やつの予言通り一輪のマーガレットが届いた。そして、そのころからやたらと不良たちにけんかを売られるようになり、それを打ちのめしては求愛された。――いや、勘弁しろ!
 それから一ヶ月後、見事に彼氏ができて湊に報告することになる未来を、おれはそのとき知る由もなかった。ちなみにあいつと違ってケツは無事だということだけは、切に伝えさせてくれ。おれはタチだ。




――腐男子の呪い。それは、使用した者が新たに呪いを受け、まじないが永遠に繰り返される禁断の術。
 腐男子がこの世から存在しなくなるまで、その呪いは終わらないのであった。
 さて、次の犠牲者はいずこに――……?



End.

Prev Next
Bookmark
Back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -