3.風紀委員長と


 ライバル意識を燃やしているのか、それともほかに理由があるのか、とにかく篤実は透に突っかかってくる。成績も人気も、あちらがどれだけはり合おうと透は気にもとめないのだが。それがいけなかったのだろうか。ますます篤実は対抗心を持ってしまったようだった。
「まさかこんなところでチンポ挿れられて喘いでるとはな……。こんなこと学園のやつらに知られたら、株がさがるどころの話じゃねーよなあ?」
 いい脅しの材料を見つけたと言わんばかりににやにやといやらしい笑みを浮かべるおとこに透は焦りひとつ見せず、かったりぃな、などとおもっていた。
「言いたきゃ言えよ。おれがクソビッチなのは事実だからな、否定する気はない。ま、そしたら次のランキングではおまえが一位になれるかもな」
 ランキングとは、生徒会の役員を決めるための人気投票、いわゆる「抱かれたい・抱きたいランキング」のことだ。上位に入ると問答無用で生徒会に入れられるというふざけた制度だった。篤実はそれで総合二位だったのだが、風紀委員長になることで生徒会入りを免れたのだ。透も風紀のほうがまだましだとおもっていたのだが、先に篤実が風紀になると宣言してしまったため、結局会長になった。トップふたりが風紀に入ってしまえば、完全に権力のバランスが崩れる。さすがにそんなことになるのは困るので、透は渋々生徒会に入ったのだった。だから、この地位に愛着などあるはずもない。
 秘密がばれたというのになぜ平然としているのか、理解できないのだろう。篤実が訝しげな表情でこちらを睨んでくる。
「なにを勘違いしてるのか知らねーけど、おれはべつに会長なんてやりたくてやってるわけじゃねーんだよ。来年も会長やらなきゃいけないとおもってたからな、だれかが代わりにやってくれるならそのほうがありがてぇ」
 二年のうちから会長になってしまった透だが、任命され、拒否権がなかったために仕事をこなしていただけだ。今の地位も特権も、透にとってはしがみつくほどのものではないし、会長でなくなればもっと暇な時間ができて今以上にセックスに勤しむことができるようになるのでむしろラッキーではないかとすら考えていた。
「……ほんと、てめぇは舐めてるよなあ、他人のこと」
 青筋をたてて怒る篤実には疑問しかいだけない。今の発言のどこに舐めてると感じる要素があったというのか。
「べつに舐めてねーし。おまえがおれになんかおもうところがあるから、そう感じるだけだろ」
 ぐっと篤実の目が見ひらかれ、図星かよ、とおもっていると「うっせぇ」と地を這うような声で凄まれ、押し倒された。
 さすがにこの展開は予想していなかったため、今度は透が瞠目する。
「……なんだ?」
「……おまえ、だれでもいいんだろ? なら、抱かせろよ」
「はあ?」
「佐東を夢中にさせる体に、興味があんだよ」
 あまり気は乗らない。しかし、抵抗するのも面倒で、すっと力を抜いた。
 こいつとは体の相性悪そうなんだけどなあ。
 首筋にきつく吸いつかれつつ、そんなことをおもう。
 先ほどまで丈士に抱かれていた体は馴らさずとも雄を受け入れる準備がととのっている。
 こいつ、前戯とかしなさそうだよな、と失礼なイメージを抱くも、あながち間違っていないらしい。
 ふにゃりとした透の陰茎を軽く扱き、蕾の状態を確認してから、篤実は避妊具を装着し、性急に肉棒を押し込んできた。
「っう、く……、んん、」
 痛くはないが、きもちよくもない。
 風紀のトップのくせに制服は着崩すわ抱いてくれとせがんでくる生徒を食い荒らすわ、自らが風紀を乱しているおとこのことだから、幸人に負けずとも劣らないテクニックの持ち主なのだろうかとおもえば、そんなことはなかった。
 激しく腰を振ればいいとでも考えているのか。こちらの様子をいっさい顧みない篤実に、いっそ感心すら覚えた。
 そりゃあ中はどこもかしこも性感帯、みたいな体ではあるが、だからってなにをどうされてもあんあん喘ぐわけではない。
「よすぎて声も出ねーかぁ?」
 勝った、みたいな表情をされ、いらつきを通り越して呆れた。声も出ないほどよがっていたら、つい逃げようとしてしまう身体が淫らに踊るし、もっと余裕がなくなる。
 まさか、今まで篤実に抱かれてきたやつらも毎回こんなふうに突かれていたのだろうか。
 いやな想像をしてしまったが、もしこの想像があたっていたらかわいそうすぎる。
 こりゃ、二度目はねえな。
 冷静に分析しているとペニスを上下にこすられ、射精を促される。しかし、たえることも難しくはなさそうなので、行為を長びかせてプライドをへし折ってやろうかとおもったが、このままセックスを続けるほうが透にとっては苦痛になりそうなのでやめておくことにする。
「……っ、く、ふ……、」
「おら、イけよ」
「んん……ッ」
 先端部分を親指でぐりりと嬲られ、我慢せず白濁を放つ。すると、後ろが同時にしまり、その刺激で篤実も達したようだった。
 大きさだけは立派なそれが出ていき、解放されると透は無言で衣服をととのえた。はやく寮に戻ってシャワーを浴びたい。二回も連続で、しかもそれぞれをべつのおとことしてしまったため、体がべたついていた。
 篤実のおめでたい目には透が屈辱に震えているように見えるのか、「なに、抱かれたりねぇ?」とにやにや笑いながらそんなことを言ってきた。そんな彼に、教えてやる。
「……おまえ、びっくりするくらいへたくそだな。まあさ、雰囲気を大事にしろなんておんなみてえなこと言うつもりはないけど、突っ込んで腰振ってりゃいいとおもってんのまるわかり。ちょっとは相手のこと気にしろよ」
 ぽかん、と口をあけて唖然としているおとこに、透はとどめをさす台詞を放つ。
「あ、今度うまいやつとのセックス見せてやろうか? かなりいい勉強になるとおもうぜ」
「……そんなに言うなら見せてもらおうじゃねーか」
 こめかみをひくつかせるおとこに内心首をかしげつつ、「じゃあそのときになったら呼び出すから連絡先教えろ」と携帯をとり出し、アドレスを交換した。
 なんかおかしなことになったな、とは感じていたが、深く考えるのが面倒で透は篤実をわかれ、自室への道のりをたどった。
 篤実に見せるセックスをする際の相手は、もう決めている。セフレの中で最も経験値の高い、あのおとこ。生徒会顧問――桐生政貴(きりゅうまさたか)である。
 腰が砕けてしまいそうなほどの快感を得られる彼との性交に想いを馳せれば、先ほどまで男根を咥え込んでいた後孔がじくりと疼いた。
 やはり自分はどうしようもない淫乱だな、と笑いつつ、その日がくるのを心底楽しみに待つことにした透なのであった。




bookmarkback

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -