1.会計と


 頭脳明晰、眉目秀麗。そんな四字熟語がぴったりあてまはってしまう、ここ、桃山学園高等部の生徒会長には、それらの部分をすべてひっくり返してしまうような欠点があった。
 ――彼は、とんでもないビッチだったのだ。


 桃山学園は初等部から大学部まであるエスカレーター式の全寮制の男子校で、幼いころから同性しかいない空間にとじ込められるものだから、身近にいる者で性欲を処理しようという考えに至る生徒が大半だ。故に、九割が「おとこもいける」とのたまうような学園だった。そんな中、人気投票で決まるといっても過言ではない生徒会のトップになった、宮城透(みやぎとおる)。成績も家柄も容姿もほかとは比べ物にならないほどに突き抜けている彼は――残念なことに、ネコだった。親衛隊も存在するが、可愛い男子には興味がない透は、どれだけ誘われても彼らを抱く気にはなれなかった。
 現在透のセフレは十人近くいるが、そのだれもがそういう関係だということを割り切ってくれているので、ひどく楽だった。中でもとくにお気に入りなのが生徒会で一緒の会計、皆川幸人(みながわゆきと)と風紀委員の一年、佐東丈士(さとうたけし)のふたりだ。
 生徒会と風紀の仲は風紀委員長の森永篤実(もりながあつみ)が透にやたらと突っかかってくるため、あまりよくはない。しかし、体の相性というものがあるため透は丈士とのセックスをやめるつもりはなかった。篤実にばれないような場所を選び、事に及ぶのがスリリングで楽しいのだ。
 透は身長が百八十センチを越えているにもかかわらず、自分よりも背が高く体格のいいおとこに犯されるようにして抱かれることを好んでいた。だが、そういった人物はもっと背が低く、華奢な子がタイプな場合が多いので、ある程度の妥協はしている。
 幸人とは身長も体格もほとんど自分と変わらないが、相性がいいから続いているのだ。チャラい外見を裏切らず、彼は経験豊富なためテクニックも申し分ない。
 幸人とするのは、もっぱら生徒会室にある仮眠室でだ。鍵もかかるし、なにかあればすぐにだれかが呼びにくるしで、都合がいいのだ。役員が全員揃って仕事をしなければいけない決まりなどはないし、繁忙期でもない限り毎日生徒会室にきて仕事をする必要はない。そのため、副会長と書記には仮眠室でたびたびセックスをしていることはまだばれていなかった。
 本日も、むらむらきた透が幸人を誘い、ふたりで情事に耽っていた。


「あ……、は……っ、」
 弄られすぎてぷっくり膨れた乳首をこりこりと摘ままれ、あまい声が洩れる。緩慢とした腰の動きに焦れて自ら動こうとするも、そのたびに胸の突起を転がされ、力が抜けてしまう。
 セフレに身を任せても翻弄されることはほとんどない透にとって、こういう展開は新鮮だ。とくに騎乗位のときは、とあるひとりを除けば、あとはどんな相手でも完全に主導権を握ることができる。まあ、疲れるからあまりしないのだが。
「ん、ん……っ、ゆき、てめ……、遊ぶのもそれくらいに……、っ!」
 話している途中でいきなりぐぷ、と奥まで貫かれ、続きが掻き消された。
「はは、もっと焦らしてやろうかとおもったけど、おれのほうがもう限界」
「うっ、ん、ぁ、あーッ、は、ぁあ、んっ」
 ぐちゅぐちゅ、中を荒々しく突かれると、透の頭はすぐに快感を追う以外のことに興味を示さなくなってしまう。
 きもちいい。もっと、壊れるくらいに穿たれたい。
 そうおもって長い足を幸人の腰に巻きつけ、娼婦よりもずっといやらしく身体をくねらせれば蕾を出入りしている肉棒がよりいっそう硬くなり、透を歓喜させた。
「ぁーッ、あン、は、っあ、幸人のチンポ、きもちい、ぁ、もっとおく……!」
「はーもう、かいちょーのケツまじで名器だよね……。なにこの絶妙なしめつけ。最近、抱いてくださいって寄ってくる子猫ちゃんたちじゃ満足できなくなってきちゃって困ってんだよ? おれ」
「は、ぁん、とうぜん、だろ。おれのアナルはマンコにだってひけをとらねえから、な、ッあ、あぁっ!」
 ばからしい会話がセックスの最中に交わされるのも、幸人との行為の特徴だった。それも、激しく奥を抉られてしまっては中断せざるを得なくなってしまうのだけれど。
「あん、ぁ、はぁ、っ、ん、ん、ゆき、ゆきと、それッ、いい、すっげ、ぁ、感じる……ッ!」
「あー……、かいちょ、おれ、もうすぐいっちゃうかも……」
 淫らな水音と、肌がぶつかり合う音が響く室内。高みにのぼっていく、ふたりぶんの意識。
 ただひたすら愉悦を追いかけ、唇を貪り合えば限界はやってきた。
「――ッ! いく、ぁ、あぁーッ、あ、いく、あぁあ……!」
「……ふ、は……、っく、」
 ペニスにふれられることなく絶頂に至った透の中で、幸人も射精する。熱い、とは感じるけれど、内壁が濡れるような感覚はない。幸人がコンドームをしていたからだ。
 ――それは、透を抱くための絶対条件だった。その先に快楽が待っているのならばどんなプレイにでも基本協力する透だが、避妊具なしで性行為をさせることだけはなかった。生では、とある人物としかしないと決めているのだ。
 セフレは皆知っている。透に本命がいることを。だから、遊ぶのは後腐れない相手とだけだ。本気のやつとは寝ない。それが、ビッチと自他ともに認めている透のポリシーでもあった。だから、セフレが自分に惚れているとわかった瞬間、切り捨てたことだってすくなくはない。その点、幸人は安心だった。彼にも本命がいるからだ。
「ん……、」
「かいちょ、抜くよ」
 ぬぽ、と音をたて陰茎が出ていき、余韻が薄れてくるとべとつく体が気になって仕方なくなってきた。
 体育祭や文化祭などの行事などがあるときは生徒会室に泊まり込んで作業をすることもあるので、仮眠室の奥にはシャワールームがある。そこで順に軽く汗を流して体を清めると、ふたりはあっさり解散することにした。
 幸人はこのあとひとに会う約束があるらしく、もうすこしまったりしていたかった、という本音を隠そうともせず仮眠室を出ていった。そして、透は。
 ――性欲が満たされたなら、次は食欲だ。
 壁にかかっている時計を見れば、現在の時刻が午後の六時すぎだということが判明する。授業を終えてから卑猥な行為に耽っていたので、まあこのくらいの時間になっているだろうと予想はしていたので驚くこともない。
 今日はなにを食べるかな。
 そんなことを考えつつあくびをひとつ零し、透は食堂へと向かったのだった。



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