背徳の恋 | ナノ

2 


 ――あの日のことをおもい返し、ぼんやりまばたきを繰り返せば、未來、と名前を呼ばれた。
「……なに考えてる?」
「……べつに」
 寝室に移動し、ベッドに押し倒されてもなるべく反応を返さないよう努めていたが、行為が進めばそれも無駄になる。わかってはいても、素直に抱かれるのはいやだった。
 制服を一枚一枚剥がされ、丸裸になった体を掌が這うと、呼吸が徐々に荒くなっていく。
 たいしたことはされていないのに芯を持ち始めてしまった愚息に鎮まれ、と念じてもおもい通りにいくはずがなく。それは呆気なく勃ちあがり、駆をよろこばせてしまった。
「相変わらず敏感だな」
「……っ、うるさ、い」
 胸の突起も反応を示している中心も避け、さんざん未來の肌を堪能したのち、ようやく駆は今にも涙を零しそうになっている陰茎にふれた。
「ぁっ……、ゃ……」
 未來は普段、義務的な自慰しかしない。そのため、こんなふうに強烈な悦に犯されるのはかなり久々だった。
 おとこの弱い部分を的確に嬲られ、すぐに大量の先走りが溢れ出し駆の手を汚してしまう。しかし、彼はそれを気にもとめず、どんどん淫らな音を大きく響かせながらぺニスを扱いた。
「駆、やめ、いや、ぁあ……ッ!」
 もうだめだ、とおもった瞬間、根元を握って射精をせきとめられ、つい「なんで」という目で駆を見つめてしまう。
「はやいうちからイってたらもたねーだろ」
 どれだけ無茶をさせる気なんだ、と眉を顰めるも、こうと決めたらすこしも譲る気のないこのおとこになにを言っても無駄だ。
 おとなしく身を委ねるしかないことを内心で嘆きつつ、乾いた蕾にさし込まれた指にぴりりとした痛みを覚え、息をつめる。
「んっ……」
「力抜いてろよ」
 すると駆はかた、とベッドの脇にある棚からボトルをとり出し、中身を下半身に垂らした。その冷たさに驚くような声をあげてしまったが、おとこはかまわずそれを塗りひろげ、ふたたび後孔への侵入を試みる。今度はつるりと指を飲み込んだそこに満足げな表情を浮かべると、駆は容赦なく中の感じる部分を暴いた。
「っあ! や……っ、ぁ、ぁっ、」
「おまえ、ここできもちよくなれること忘れてないんだな。おれの指、うまそうにしゃぶってるじゃねーか」
 未來は、同性とこういうことをするのは初めてではない。二年ほど前、無垢な体を淫らなものにつくり変えたのは、駆だった。だから、だめなのだ。ほかのだれにふれられても乱れることのない体が、このおとこにだけは服従してしまう。
 秘部を弄られるのは久々だというのに、そこはすぐに綻んで雄を受け入れる準備をととのえていった。
「ぁ、あッ、ぁん、あ、やだ、や……っ、ひ、っあ」
 三本の指を咥えることができるようになるまで、そう時間はかからなかった。前立腺を弄られればきもちよくてどうしようもなくなり、思考も体もぐずぐずにとろけていく。
「もういいか?」
「ん、ん……、」
 着ていた服を脱ぎ捨て、そそり勃った屹立をぴとりと押しあてられ、期待に入り口がひくりと震える。
「……未來、」
「な、に……っ」
「だれに抱かれてもいい。けど、ゴムしないでやらせんのも、中に出させんのも、おれ以外にはゆるすなよ」
 ――それは、命令?
 視線がそう問うていたのだろう。「いや、ただのお願いだ」と駆は言った。未來はすこし考えたのち、頷いた。命令でなくとも、守るつもりだった。
「……かける、」
 名前を口にした瞬間、灼熱の楔が中に押し込まれた。零れかけたちいさな悲鳴は自分を犯すおとこの唇に吸い込まれ、散り散りになる。
 苦しい。でも、きもちいい。
「んっ、ん、ふ、……っ、ぁ、は、ぁん……、」
 舌を絡め、息も絶え絶えになりながら口づけを交わす。その間に手をぎゅっと強く握られ、まるで恋人どうしのセックスのようだ、と感じた。
 互いの唇を繋いでいた銀糸がほどけ、声を自由に発せるようになると、嬌声がとまらなくなった。
「あッあ、あーっ、は、ぁ、あぁん、や、かける、も、いや、やぁ……っ!」
「なんだ、もう限界なのか」
「むり、も、むりだからっ、さわって、おねが、いかせて、おねがい、」
 先走りをこれでもかというほどにだらだらと零して懇願するも、おとこは律動を激しくするばかりで性器にはふれてくれない。代わりに乳首を抓られ、そこじゃない、と瞳を潤ませるがやはり駆は未來の頼みをきいてはくれなかった。
「ぁ、ぁ、なんで、ぁあ……ん、も、いや、くるし、ぁ……ッ」
「今日はケツだけでイけ」
「ゃ、むり、むりだ……って、」
 あのころとは違うのだ。いきなり難易度の高い要求をしないでほしい、と心の中で文句の嵐をばらまいても、奥を穿たれるたびに絶頂に至りそうになるのも確かだった。
 未來の体は内側に溜め込んだ欲熱が渦巻き、解放を今か今かと待っている状態だ。とある一線を越えれば、凄絶な愉悦に満たされることができる。しかし、それを越えることがあと一歩のところでかなわない。
「あー……ッ、ぅ、や、かける、ゆるして、かける……っ、」
 涙でぐしゃぐしゃになった顔をさらに歪め、うつくしい筋肉のついたおとこらしい身体に抱きつけば、ふっと笑うような息遣いが聞こえた。
 もしかして、さわってもらえるのだろうか。
 淡い期待に胸を高鳴らせると同時に、よりいっそう深くまで犯される。
「――ひぁあぁ!」
 かつて、何度も何度も駆の肉棒に突かれて意識が飛ぶほどの快感を得ていた部分をごりりと抉られ、未來は線を越えた。
「ぁ、ゃ、やっ、いっちゃ、いく、いや、いくっ、だめ、や、あぁあん……ッ!」
 どくん、とひときわ大きな鼓動の音が響いたとおもったら、鈴口からとろとろと粘着性のある体液が溢れ出していた。
「ぁ、ぁ、や、やっ……、ぁ、ぁん……っ」
「こっちだけでイけたな」
 全身に広がる強烈でいて、しかしとびきりあまい快楽にすすり泣くも、まだ終わりではない。駆が達していないからだ。
「ぁーっ、ぁ、や、まって、うごかな……っ、あ、いった、いったから、だめ、なか、いや……!」
 極まったばかりで過敏になっている内壁を遠慮なく掻き回すおとこを押しのけようとしても、とても力ではかなわなかった。激しく揺さぶられるたび跳ねることしかできず、高波のような快感に思考が浚われそうになる。
「未來、」
「っぁ、あ、あーッ、また、また、きちゃう、ゃ、あぁん、っやぁ、あ!」
 唇を重ね、ぎゅうっと体を抱き込まれてすぐ、絡みつく襞をほどきながら抜きさしされている肉塊が膨張し、震えた。
 くる、と目をぎゅっと瞑れば、熱い飛沫が最奥にたたきつけられる。それとほぼ同時にふたたび吐精し、未來はか細い声で啼き声を洩らし、中のものをしめつけた。
「……も、抜けよ……」
 どっと襲いかかってきた疲労に身を委ねたくなるのを我慢してそう言えば、ぬちゅりと淫猥な音をたててぺニスが出ていこうとした。――のだが。
「ひっ!?」
 予告なしにずぷん、とそのまま貫かれ、小さな悲鳴をあげてしまう。
「なに、駆っ……! も、むり、だって……」
 久々の性行為に未來はくたくただというのに、駆はまだ続けるつもりらしい。緩やかに腰を振り、性欲を煽ってくる。
「今日は朝までつきあってもらうからな」
 にやりと笑うその顔は悪魔のそれで、その口から発された台詞は死刑宣告に等しかった。
 あした、授業にいくことをあきらめると、未來はそっとため息をおとしたのだった。



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