背徳の恋 | ナノ

7 


「ぁーっ、あ、や、なに、いや、やだ、かける、やめ、あッ、あ、いやぁっ」
「我慢すんな。……ほら、噴けよ」
「――ひぃッ!」
 情けない悲鳴とともにぷしゃあ、と勢いよく尿道から飛び出したのは――、液体、だった。粗相をしてしまった、と青ざめるも、すぐさま羞恥により赤で塗り潰される。
「は、じょうずに潮吹きできたじゃねえか」
「っし、しお……?」
「そ。潮吹きができるのはおんなだけじゃないんだぜ」
「っあ! ひっ、あーッ! や、やだ、また、でる、いやっ、しお、ふいちゃう……!」
 おかしくなる、と未來は震えた。
 ずっと、好き勝手抱かれてめちゃくちゃにされてきたのだとおもっていたのに、まだ先があったのだ。むしろ、駆はずっと手加減してくれていたのではないかとすらおもった。
「もう一度だけ、チャンスをやるよ、未來」
「ぁ、ぁ、ぁッ」
やさしく囁かれるも、返事すらできない。
「おれのペニスとあいつのペニス、どっちがきもちいい?」
 すこし前に聞いたものと同じ台詞が繰り返され、わざとらしく動きを緩やかにした駆に必死に縋りついてしゃくりあげながら、未來は本心を告げた。
「か、かけるの、がぁ……っ、だれの、おちんちんより、いちばん、きもちい……っ」
「おれも、おまえの中が一番きもちいいよ」
 え、と驚きの眼を向ける前にくちびるにキスをされ、反射的に目をとじてしまう。舌がとろけそうなあまったるい口づけに恍惚としていると、浅い部分を嬲っていた陰茎が奥へと押し込まれ、未來はこらえきれずに喘いだ。
 もう、やめてほしいなんてうそっぱちの願望を抱いているふりをすることすらできなくなっていた。駆も、「やめてやる」なんて言ったことなどなかったかのように、突きあげを開始する。
「――ッ、おく、ぁ、おくぅ……っ、あー、あッ、あぁーッ、すごい、かけるのが、きてる……っ」
「ん、これ、好き?」
「ん、ん、すき、すきぃ……、もっと、おちんちんで、ぐりぐり……っ、して、」
 ねだった通り、亀頭が最奥をやさしく抉るとぽろぽろと歓喜の涙が零れ、この先にあるいきすぎた快感に期待と恐怖をいだき、肌が粟だった。
「ぁ、また、いっちゃ、も、だめ、かける、いってい? ちゃんと、おしりだけで、いくから……っ」
「いいこだな、未來」
 よしよし、と頭を撫でられると胸がくるしくなるほど満たされた。褒美だとでもいうようにごりごりと奥の性感帯を可愛がられる。
「っ、いく、ぁ、いくぅ……ッ! あッ、ぁん、あーッ!」
 ばちばち、星が弾けて目の前で散る。
 今度こそなにも出さずに達したため、駆が満足するまで未來はこれから幾度も、数えきれないほどおんなのごとき絶頂をさせられるに違いない。それがわかっていても、逃げたいとは感じなかった。自分はもう、その快感の虜になってしまっているのだ。
「ぁー、ぁー……っ、は、ひ、かける、もっと……、もっと、して、いつもみたいに……っ、めちゃくちゃに、おれを、おんなみたいに、して」
 懇願した自分に、「なあ、知ってるか、未來」とおとこは笑う。
「おまえのここは……、マンコよりもずっと熱くてきつくて、おれに最高の快感をもたらしてくれるんだぜ」
 その言葉を聞き終えた途端、全身が燃えるように熱くなった。その原因は、怒りでも、恥ずかしさでもない。――よろこびだ。
「かける……」
 うれしくてうれしくて、自らくちびるを寄せた。それに応えるようにして顔の角度を変えた駆と口づけを交わしているあいだ、いっそう深い闇におちていく心地がした。




 どこで間違えたのか。どうして、ここまで拗れてしまったのか。
 自問しても答えは出なかった。
 たとえあの日、駆と離れることにならなかったとしても、未來は生徒会長になるために彼を裏切ったはずだ。
 過程は変わっても、結果は変わらない。だから、考えるだけむだだとわかっているのに。
 やめられない。どうして彼の手をとって歩いていく決断ができないのか、自分にもわからない。
 大切なものを逃がさないよう、きつく体を抱き込むおとこの寝顔をじっと見つめる。
「駆」
 心の中で名前を呼んだ。当然、彼は起きない。
――やめられるわけがなかった。
 口で、態度で、駆がいなくてもやっていけると示してみても。本心が、本能が、それを拒んでいるのだ。そして、未來はずるいから、彼のほうから強引にあちら側にひき寄せてくれることを期待する。そうすれば、言い訳ができるからと。
 おとこは聡く、やさしい人物なので、それを実行してしまう。だれでもなく、未來のために。
 飛鳥のことを想えば、ためらうきもちはどうしてもうまれる。しかし、すでにふたりはひき返せないところまできてしまっていた。
 きっかけは、きっとゲームだった。あの日以降、様々な思惑が交差し、未來をとりまく人間との関係の様相が一変した。
 歯車は、とっくの昔に外されていたのだ。――おそらく、進の手によって。
 とんでもないことをしでかしてくれたものだ、とおもう。だが、そのおかげで未來は自覚した。自覚した、というよりは、認めざるを得なくなったというほうが正しい気もするが。
――駆を手離したくない。飛鳥にだって、ほんとうは渡したくはないのだと。
 彼は自分のものでもないのにおこがましい考えだと承知の上で、自分の心はそう叫んでいるのだ。
 月明かりがカーテンの隙間から、一筋だけさし込んでいた。それが絶望の内に残されている唯一の希望のようにおもえて、未來は長いあいだ、駆の腕の中からそれをじっと見つめ続けていた。



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