背徳の恋 | ナノ

4 




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 卒業式が終われば次にやってくるのは入学式と新入生歓迎会だ。前もって準備は始めていたが、春休みを返上して作業をしなければならなくなるのは避けようがなかった。
――そんな中でも、駆は駆だった。未來の都合や疲労などおかまいなしにやってきて、好きなように体を弄ぶ。それなのに、行為をした翌日の頭がすっきりしているものだから文句も言いがたい。
 高弥とはなるべく連絡をとり合うようにはしているが、ここしばらく顔を見ていなかった。こういうときはすこしでも顔を見たいとおもうのがふつうの恋人どうしの心理なのかもしれないが、未來はとてもそんなきもちにはなれなかった。
「ん、ん……っ」
「おい、なに考えてんだ」
「ぁっ、補佐、どうしよ……」
「はあ? こんなときにか?」
 駆のものを後ろで咥え込んでいるのでそう言われてもしかたないが、これは自分の頭を悩ませている大きな問題のひとつなのだ。
「川端か」
「……高弥は、外部生だから、もしかしたら反発が、あるかなって……。でも、成績は申し分な……、んっ、」
 跡が残らない程度に背中をかぷりとあまく噛まれ、小さく嬌声をあげてしまった。それを合図にでもしたかのようにゆったりとしていた抽挿が激しくなり、未來の中にわずかばかりあった余裕が剥ぎとられていく。
「あ、あ、ぁん……っ、は、ぅ、駆、まっ……、」
「こういうときくらいこっちに集中しろ」
 快感の波に浚われる。
 霞む視界の端に、逃げるように伸びた手の上に駆の掌が重なっているのを捉えたのち、未來はふっと瞼を伏せて淫らな時間に溺れていった。


 この学園はエスカレーター式で、外部生は滅多に入ってこないため高校の三年間を同じ校舎で過ごす生徒は中学の三年とほとんど変わらない。それでも、接点がなければ関わることのない者も多く存在する。
 未來は全校生徒の顔と名前だけは、とりあえず頭に入れていた。どこかで役立つことがあるかもしれないという想いもあれば、進を手本にした部分もあった。
あのひとのように新入生を心から歓迎することは、自分にはできない。けど、だからこそ。繕うための努力はやりすぎなくらいするべきなのだ。
 進は、お手本――にしてはいけないレベルの生徒会長だった。わるい意味ではない。あまりに優秀すぎたため、見本にしないほうが身を滅ぼさずに済む、ということだ。
 そんな彼から生徒会補佐にならないかと誘いを受けたとき、未來はうれしくてたまらなかった。
 補佐は問題を起こしたり辞退したりしない限り、ほぼ確実に次代の役員になる。そのための才能と実力が備わっていると認められたことになるわけで、会長を目指していた未來にとっては願ってもない誘いだった。二つ返事でひき受ける旨を伝えれば、「よろしくな」と彼は笑った。
 自分は同じことを繰り返すのだろうか。
 高弥を補佐に誘い、入ると言ってくれたら「よろしく」と微笑みかけ、次の役員に任命して、ゲームの手紙を出して幻滅されるのか。
……自業自得だ。けれど、それだと確実に高弥が傷つく。学園を卒業してからもつきあう気は初めからなかった。だが、だからといって彼を悲しませたいわけじゃない。わかれが遠距離になるからという理由ならば納得がいくだろう。すくなくとも、ゲームのためだったのだと告げられて振られるよりは。
 リミットは入学式。それが終わるまでに、高弥をそばにおくかおかないか、選ばなければならなかった。




 学園を囲むように植えられている桜の木に花が咲き、それが散り始めたころ。新緑学園の入学式がおこなわれた。
 新しい生活への期待を胸に幼さを残した顔立ちでおちつきなさげにそわそわしている生徒たちを壇上から見て、自分もこんな感じだったのかな、と過去をおもい返そうとした。しかし、あの時期は不安定だったという記憶しか蘇ってこず、にがいきもちが胸にひろがる。
 現在、きらきらと輝いている生徒たちの目がどうか曇らないよう。そっと心の中で願い、未來は用意していた挨拶の言葉を述べた。
――その後も、式は問題なく進行した。これが終わったあとに役員は一度生徒会室に集まり、補佐を決定することになっている。
 三人は意見こそ出したものの、最終決定は未來に任せると言っていた。最後の最後まで悩んだ結果、自分が出した答えは。
「――入学式が終わってそうそう申し訳ないけど、生徒会補佐について話しておこうとおもう」
「だれにするの?」
「……とりあえず、緑川正太(みどりかわしょうた)と鈴屋暁斗(すずやあきと)を勧誘してみようかと」
 高弥には声をかけない、というものだった。
 未來は彼を最後まで欺き続けることを選択した。それが、正しいのかどうかは、まだわからない。
「高弥くん、入れないの?」
「……私欲で補佐を決めたらまずいでしょ」
 ふしぎそうにする飛鳥に咄嗟にそう返答したが、「……ぼくだったら絶対、そばにおきたいっておもうけどな」と若干胡乱な目をされてしまった。
「飛鳥……?」
 ふだんと異なる様子の友人に戸惑いつつ名前を呼ぶも、「だが、会長としては正しい判断だ。このふたりならば問題はないだろう」という藤士郎の台詞により話を進めなければならなくなり、未來は飛鳥の表情をちらちら窺いながらも今後の予定を皆に伝えた。
 彼らへの打診は今週中にして、来週中には返事をもらう。そして補佐を生徒会のメンバーに追加後すぐ、本格的に歓迎会の準備に移らねばならない。それまでに出し物や段どり、必要なもののピックアップなどできることは四人でやっておく必要があった。補佐はすぐには戦力にならない。だが、来年役員になったとき、この経験が必ず役にたつのだ。それは、補佐を経験した未來だからこそ断言できることだった。実際、どんなふうに計画をたて、当日の運営をしたかというのを一年前に脇から見ていたため、なにから手をつければいいのかと迷うことなく済んでいる。
「さて、お疲れのところ申し訳ないけど、もうひと踏んばり頼むよ。さっそく、歓迎会の案を出し合おうか」
 未來がそう宣言すれば、役員たちの顔がきりりとひきしまった。
 こんな自分に愚痴ひとつ零さずついてきてくれる彼らに、感謝のきもちが湧いてくる。
 結局、その日の話し合いは夜遅くまで終わらなかった。



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