背徳の恋 | ナノ

7 




「ぁ、あ、やだ、やめ、やめて、いや……っ!」
 いやいやと首を振る。しかし、駆はゆるしてくれない。
 いじわるをして、狂ってしまいそうな快感を与えて。そんな、彼らしいセックスをしてくれればいいのに。
 今日の駆は、おかしかった。ひどく、やさしく抱いてくる。それこそ、未來の頭がおかしくなってしまいそうなほどに。
「なんで。ここ、こんなによろこんでんのに」
 つうっとアナルのふちをなぞられ、ぞくぞくとした言葉にし難い感覚に襲われ体が震えた。
「や、ぁ……ッ、ぁ、あん、は、も、いつもみたく、したらいい、だろ……っ」
 愉悦によってなにもかもがどろどろにとかされていく。まだ憎まれ口をたたく余裕が残っているのが、奇跡だった。でも、駆は煽られてはくれなかった。
 丁寧にこすりあげるようにして前立腺を、奥を愛され、涙がぼろぼろと零れた。どうしようもなくきもちいい。
 わけがわからなくなるほど激しくピストンされていないからか、若干残ってしまう理性が今は憎らしい。それが、未來を羞恥に震えさせた。
「未來、舌出せ」
「ん……、ふ、ぅ、んん、んーッ」
 両足を持ち、ぐっと深く繋がった状態で口内を貪られ、うまく息ができなくなる。それでも駆の言った通りに従順に舌をさし出してしまう程度には、自分はこのおとこに調教されてしまっていた。
 だらしない顔を曝しているのだろうな、とどこか他人事のようにおもいながらねっとりとした口づけに応えていると、徐々に駆の腰使いが変化してきた。
 ふだんよりも数倍ゆったりとしているのに、悦の質はまったく劣らない。むしろ、充足感はこちらのほうが強く感じているかもしれない。
「あッ! あ、ぁ、ひ、ぃっ、だめ、ぁあ……ッ、そこ、きもちい、の……っ、ぁ、だめぇ……」
 こんな、あまえたような声でだめだと訴えてもその言葉が本心からきたものでないことはばればれだろう。けど、口にせずにはいられなかった。
「めっちゃ中うねってる。イきそう?」
 駆の問いに小さく頷く。自分でもわかる。熟れた肉壁は猛ったペニスに絡みつき、これ以上ないほどに歓喜していた。女性器よりもいやらしいと罵られても、否定できる気がしない。それくらい、未來の淫穴は雄を美味そうに咥え込んでいた。
「あっ、おく、くる、ぁ、きちゃう……ッ、ぁ、ぁ、くるし、ぁーッ……、いく、らめ……ぇっ」
 視界がスパークする。ただひたすらやさしく抱かれているだけなのに、呂律が回らなくなるほど乱れまくって絶頂を迎えるなどかなり恥ずかしかったが、たえることはできそうになかった。
「未來、なにで、どこでイく?」
 卑猥なことを言わされそうになっている、とまともに考えることができたのは一瞬、すぐにそれは白く塗り潰され、一度学んだことは簡単には忘れないむだに優秀な頭は、勝手に駆のよろこびそうな台詞を未來に紡がせる。
「ひっ、ン、かけるの、おちんち、で、おしり、いかされちゃ、ぁ、ぁ、すごい、きもちい、の、も、でる、あ、あぁあーッ!」
 自ら陰茎を掴んで必死に扱けば、呆気なく限界に達し、先端からびゅくびゅくと精子が飛び散った。
「あッ、あふ……、ふ、ぁ、……っ、ぁ、いっちゃ、た……、」
 後孔に入っているものはまだ硬度を保っている。まだまだ解放されることのない予感に体が喜悦し窄まりがひくりと震えた。――のに。
「ぁッ、あ……? なん、なんで……?」
 まだ硬いままの肉棒がずるずると抜けていく。ひきとめようと襞が吸いつくも、それはどんどん出口に向かっていく。
「ぁーっ、ゃ、ぬけ、ぬけちゃ、ぁ……、」
 出っぱった部分さえも外に出て、途方もない不安に襲われ涙が零れた。
「あ、ぁ……、かける……ッ!」
 名前を呼んで縋りつくように首に腕を回せば、ふっとおとこが笑う気配がした。
 は、と息を吐き出した瞬間に、一気に最奥までペニスを突き入れられ、あまりの衝撃に仰け反った。
「ひっ、ぃ! ぁ、あーッ! ひど、ぁ、あ、こん、なの……っ」
「ん? こんなの、なんだよ。言ってみろよ」
「あッあッ、あぁ、ん、や、きもち、よすぎる、よぉ……ッ!」
 先ほどまでの行為はなんだったのかとおもうほどに激しく穿たれ、ついていけず、頭も体もおいてけぼりにされてしまったような感覚を覚えた。
 首を舐めながら胸の突起を抓られ、快感が次から次へと襲いかかってくる。ひいひい、色気もなにもないような声を発して喘いでも、駆はその程度で萎えることはないようだった。
「未來、今、頭ん中どうなってる」
 問われたその内容を理解することもひと苦労で、必死に考え、なんとか答えを口にする。
「あん、ぁ、ぐ、ちゃぐちゃ、ぁ、ま、まっしろ、も、わかんな、なんも、きもちい、おしり、なか、きもちいい……っ」
「そうか、それなら――」
 その先に続いた言葉は、聞き間違いでなければ「よかった」だった。駆がなにをおもってそれを呟いたのかはわからなかった。わかる日など、こないのかもしれない。しかし、それはどうしようもなく未來の心に残ってしまって、忘れることができなかったのだった。




 駆とのセックスが終わると、毎度「嵐がようやく過ぎ去った」というような感想をいだく。ぐったりしてしまい、まともに動けない未來は意識があってもなくても彼に後処理をされるがままになるしかない。この瞬間がとてつもなく恥ずかしいので、頭がはっきりしている際はいっそのこと気を失ってしまいたいとおもうこともすくなくはなかった。
 丁寧にやさしくスポンジをすべらせ、汗まみれになった体をすみずみまで綺麗にしていくときの駆の表情はひどく楽しそうで、未來にとってはそれが不可解だった。
 部屋に初めからおいてあった、自分の趣味ではないバスローブを着せられるも自力で部屋着に着替えるほどの気力すらももうなく、おとこの肩を借りてなんとか到着したベッドにそのまま倒れ込む。
「はー……、疲れた……」
 まぎれもない本音が零れ出てしまい、駆になにか言われるかな、と身がまえるも彼はぽんぽんと頭を撫でるだけだった。
 さわるなと、この手を跳ね除けるべきなのにそれをしないのは、この掌の体温を、感触を、未來が心地いいと感じてしまっているからだ。
 こういう日は、夢も見ないほどに深く眠ることができる。情緒不安定なときは自身を責めるような夢をよく見るのだが、今日はその心配はなさそうだと情けなくも安堵する。
「……駆、」
「ん?
「帰るとき、この部屋の鍵のスペア、持ってって。テレビの横に、おいてあるから……」
 合鍵を渡すのは契約をスムーズに遂行するためだった。まるで恋人どうしのように親密になっていく関係に自嘲の念を禁じ得なかったが、なんとか表には出さないよう努める。
 未來の考えを察したのか、駆は「わかった」と了承し、布団の中にもぐり込んできた。
 役員の部屋のベッドは広い。おとこふたりが並んで横になるくらいどうってことないのだが、問題はそこではない。
 もしかして泊まっていく気なのか、と顔を顰めようとしたが、それができたかどうかはわからなかった。そのときすでに未來は睡魔に負けており、意識を黒の世界へと溶け込ませていた。



prev/next

bookmark

[back]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -