※ふたりは大学生、本編完結後、恋人設定




 彼方は嫉妬深い。
 そのことを知ったのはつい最近なのだが、そのせいで紅狼は言い寄ってくるおんなを強く拒まないようになっていた。
ほかのだれかから向けられたなら鬱陶しくてしかたない感情も、発信源が彼方ならばいっそ歓迎すらできるというものだ。
 いきたくもない合コンにいって香水のにおいをつけて帰宅するとあからさまに顔を顰めるものだから、やめられない。今までさんざんやきもきさせられたぶん、おいしい想いをしたいとおもうのは当然の心理だった。
「ただいま」
「おー、おかえり」
 本日も飲み会を途中で抜け出し、ふたりで暮らしているマンションに戻ってくると、テレビを見ながら寛ぐ彼方が目に入る。
「飯は?」
「食った。けど、なんかちょっと食いたいかも」
「んー、お茶漬けでいいか?」
「おー」
 そこまで美味いものが出たわけでもないし、がっつり食べたわけではなかったので腹にはまだ余裕があった。
 とくに見たいものがあったわけではないのだろう。彼方はあっさりテレビを消すと、キッチンへ入った。
「すぐ食べたいか?」
「や、待つ」
 質問の意図を察した紅狼は時間がかかってもいいと、待つことを選んだ。すぐに食べたいと言えば素と湯を渡されたに違いない。しかし、すこし我慢すればそれよりも満たされるものが出されるはずだ。
 彼方が消していったテレビをまたつけるのもなんとなく憚られ、スマートフォンをてきとうに弄っていると十分ほど経ったころだろうか。「できたぞ」と声をかけられた。
 目の前におかれた大きめの茶碗には、白米にねぎとほぐした鮭、きざみ海苔が乗せられている。
「ん」
 出汁が入っているのであろう急須を渡され、それを受けとり蓋を押さえながら傾けて中身を注げばお茶漬けの完成だ。
「いただきます」
 そう告げ、箸と茶碗を持って掻き込むように食べる自分の様子を、向かいに座った彼方はじっとやさしい瞳で見つめていた。
「美味いか?」
「ああ」
 うそをついてもしょうがないので、投げかけられた問いに素直に答える。すると、おとこはたまらない、といったふうに笑みを浮かべ、「そうか」と零した。
「食い終わったらシャワーしてこいよ。おれは寝室にいるから」
 はっきり言葉にされたわけではないが、これはセックスのお誘いだと紅狼は確信していた。
 平静を装おうとするも、逸るきもちにせっつかれてうまくいかない。いつもなら静かに片づける茶碗を今日ばかりはがちゃがちゃと鳴らしながら流し台におき、風呂場へと急ぐ。
 どうせまた、あとからふたりで風呂に入ることになるのだ。汗だけ流せばいいだろうとさっとシャワーを浴びると、体を拭いて部屋着を身につけ、寝室に直行した。
「はやすぎだろ」
 声をあげて笑われるも、気分は高揚したままだ。くちびるを奪って押し倒そうとしたが、頭を枕につけたのはこちらだった。
「おとなしくしてろよ。……最高によくしてやる」
 こういうとき、おんなに対抗意識を燃やすのか、彼方はこれでもかというほどに奉仕してくれる。
 ふだんの行為に不満があるわけではないが、たまにはいつもと違った刺激がほしくなることもあるのだ。
「期待してるぜ」
 笑みのかたちに歪められる予定だった口はおとこからのキスに阻まれ、そのまま淫らで深い交わりへと変化していった。
 口づけの最中に伸ばされた手が、緩やかに股間を撫でる。欲望に正直な息子は呆気なく反応し、硬くなった。
「は、かわい」
 心底そうおもっている、という声音で囁かれると「おれ相手にその単語はねーだろ」と否定するのも憚られ、言われるがまま、されるがままになるしかない。
 身体中にキスをしながらスウェットと下着をずりさげ、飛び出たペニスに熱い息を吐き出し、彼方はそれにためらいなく舌を伸ばした。
 初めてやることもそつなくこなすおとこは紅狼が苦心してフェラチオのやりかたを教えずとも、あっという間に上達していった。今や、最初にあったわずかばかりのぎこちなさが懐かしいほどだ。
「ん、ふ……」
 あたたかくぬかるんだ口内に迎え入れられると、たまらず「ぅ」と小さく喘いだ。
 口唇と舌が巧みに動くので、剛直はどんどん質量と硬度を増していく。この中で射精し、先端に残った体液まで啜ってきれいにされる快感をおもい出すと、期待に腰がぶるりと震えた。
 そして、その期待に応えるように彼方は口淫で一度、紅狼を吐精に追いやったのだった。




「あ……っ、ん、ん、は……ぁっ」
 恋人が自分の上で、いやらしく踊る。その、視覚からの暴力がすごい。
「あー、やばい、それ、やばい」
「はは、ふ、ちょ、笑わせんな……っ、」
 恥ずかしげもなく腰をくねらせてみせる様子は凄絶な色気を放っており、それにあてられるだけで頭がくらくらするようだった。
 熱い内壁がペニスを包み込んできゅうきゅうと狭まると、押し出されるようにしてぶわりと快感が溢れる。
「ん、紅狼……、」
 下から彼方がきもちよさげにしているのを眺めるのはわるくないが、さらなる刺激がほしくなった。ものたりないぞ、と下から軽く突きあげてやれば、あまく啼いたのちに腰が激しく上下し始める。
「ぁっぁっ、んん……ッ、あ、くろ、きもちい……っ?」
「ん、すげー、いい、」
「は、ぁ、よかっ、おれも、いい……ッ、あ、あぁッ」
 浅い部分にある性感帯に屹立をこすりつけたかとおもえば、最奥のいきどまりの壁にぐりぐり亀頭を押しつけるように腰を揺らす。彼方の責めに、紅狼の口からは次第に熱い吐息が零れるようになっていた。
「あ、ぁッ、くろ、くろぉっ、」
 こちらに愉悦をもたらすように動けば、あちらも快楽にまみれるのだろう。おとこは嬌声をあげ、とろけた表情で紅狼を見おろしていた。
「ぁ、あん、も、おれ、やばい、かも、……なぁ、イって、いい、か」
「ん、いいぜ、――けど」
「あっ」
 そろりと伸ばされた手を掴み、性器を扱くことを阻むと不満げな喘ぎが洩れた。
「こっちだけでイけ」
「――ッ! や、あ、あーっ!」
 それから、自身も協力するように律動を開始すればたまらず、といったように彼方の腹が震える。

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