涙はノルウェー人の祖母を持つ、クォーターだ。実は、銀髪は地毛なのである。
 小さいころにそれが原因でいじめられ――といっても、それはすきな子や気になる子にしてしまういじわる的なものだったのだが、涙がそれを察することができなかっただけの話だ――、それがいやで黒く染めるようになったのだ。
 家族や親戚は人形のように可愛いと褒めそやしてくれたが、その外見のせいで自分が他人からよくない感情を向けられるのだと気づいてからは、視力がわるくなったのも起因し、野暮ったい眼鏡を好んでかけるようにしていた。従兄弟は「目が半分になったぞ」と笑っていたが、すべてを理解しながらそばにいてくれるのは彼だけだったし、そこに嫌みはいっさい存在しなかったので、涙も同じように笑うことができた。
 そんな従兄弟と同じ全寮制の学校に入れなかったのには、理由がある。できるだけ違う場所で、広範囲にコネクションをひろげさせるというのが親たちの方針だったので、知り合いどころか薄くとも血の繋がりがある彼とは離れ離れになることが決まっていたのだ。だが、休みには遊ぶこともあったし、慎ましくも平和な日々を過ごしていた。――そう。武宏に出会う、あの日まで。
 ほとんど一目惚れに近い恋におち、想いびとが学園にやってきたとき、このチャンスを逃したくないと泣きついた自分に従兄弟は呆れつつも応援すると言ってくれた。それから、武宏の好みやらなんやらを調査し身なりをととのえ、戦いを挑んだわけである。――というのに、驚くほど呆気なく彼は恋人になってくれた。浮気をしない、という項目を守ってもらえるとはおもっていなかったのに、武宏は案外真面目で今のところ自分以外のだれかを抱いている様子はない。つきあわないかと提案された側ではあるが、彼が涙のことをちゃんとした意味ですきかといったら、たぶんそうではないのだろう。でも、危惧していた親衛隊の制裁もきちんと話をつけて被害がないよう努めてくれているし、ほんとうに小さな嫌がらせしか受けていないため、そんなことは屁でもなかった。
 愛されてはいないのかもしれない。だけど、大事にはされている。それだけで、涙の心は満たされた。もとより、彼と交際できるなんてこれっぽっちもおもっていなかったのだ。ゆえに、未だ夢心地なのである。
 週末は武宏の部屋で濃密な時間を過ごし、たまにデートもする。しあわせだが、現実味がなく感じるのも本心だ。
 また、涙は彼にひとつ、重大な隠し事をしている。いつまでも黙っているのはよくないだろうと切り出す機会を窺っているのだが、突然暴露するのもおかしな話なので困っていた。今さらすぎるが、重いと言われるのが怖いのだ。
 涙の秘密――それは、「実は処女だった」というものであった。
 初めてで武宏の規格外のペニスを美味そうに呑み込み、ところてんまでできるものなのかと問われたら、まあ不可能だろうと答える。ただ、自分は「処女」ではあったが「初めて」ではなかったのだ。
 どういうことかというと――ここでもまた、従兄弟が関係してくる。彼は涙の恋を応援すると同時に、できる限りの手助けもしてくれた。それに、性的なものも含まれていた。それだけの話なのであるが。
 武宏は未通女ぎらいという情報があったため、いっそ抱かれてしまったほうがいいのではともおもったが、「あとで後悔するぞ」と諭され踏みとどまった。そして、「ちんこ挿れる以外のことはだいたい教え込んだから、処女だってことはぜってーバレない。おれが言うんだから間違いないって」と励まされたため、素直にうなずいたのだ。だって、ほんとうに従兄弟の言うことに間違いがあったことなどなかったから。実際、こんなふうにつきあえることになってからは考えなしに彼に抱かれなくてよかったとほっとしたが、今度はうそをついていることに居心地がわるくなってしまったというわけだ。
 もちろん、結腸を責められるのも潮吹きも初体験だったのだが、それを武宏にされたとき、ひどく乱れてみせたせいで「おまえの体、まじでえろいな」と気に入られてしまったため、涙は余計に真実を言い出せずにいた。
 プライドが高そう、クールそう、高飛車そうと、そんなイメージが自分にはつきまとっているらしいが、実際はうじうじしているし、気弱だし、自分に自信がないし、心配性だ。けれど、舐められたら危険になるから演技は一応しておけと従兄弟から強くすすめられたために、なんとか仮面を被っている。だが、武宏にまでそれができるはずもなく、「見た目とのギャップがすげぇ」と言わしめてしまった。彼は昔、プライドが高くて高飛車な美人とばかり関係を持っていたようなので、そういう女性が好みなのだろう。ゆえに、涙の中身が「これ」で落胆したに違いない。
 武宏は自身のことを「ろくでもない人間」とたびたび称すのだが、涙はちゃんとした恋人になってから、彼に惚れなおすばかりだった。
 今はあのときのように気まぐれなんかじゃなく、意識してやさしくしてくれている。常に、穏やかな表情を向けてくれる。親衛隊から守ってくれている。遊びに連れ出して、新しい世界を見せてくれる。やさしくやさしく、キスをして、抱いてくれる。
 てきとうなつきあいしかしたことがないと言っていたのに、武宏はできた彼氏としか表現しようがなかった。ひとのことを言えないのだが――自己評価が低すぎないか? といらぬ心配をしてしまうほどだった。
 秘密を抱えていることにほんのすこしもやっとしたまましあわせに満ちた日々を送っていると、ある日の休日、唐突に武宏が「なあ、涙の初体験のおとこってどんなやつ?」と訊ねてきた。まさか、彼がそんなことを聞くようなタイプだとはおもっていなかったため、「え、と、」と言葉につまってしまう。しかし、これは最大のチャンスだと気づくと、涙は武宏の目を見つめながら頬を染め、「す、すごく……かっこよくて、やさしいひとです」と言った。すると、口をへの字にして不機嫌そうに「おれよりもか」と返される。
――伝わってない!
 慌てて捕捉を入れる。
「ちが、あの、その、おれがかっこいいっておもうのは、武宏さんと従兄弟だけだから……」
「……従兄弟?」
 あれ? そっちに食いつくの? と疑問を感じつつも「ええと、従兄弟、いますけど」と事実のみを口にした。

  | Back |
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -