ああ。外を歩けば自分に負けず劣らず女性から熱いまなざしを向けられるおとこが、腹の上で淫らな行為に耽っている光景の、なんと贅沢なことか。
「ぁ、ぁ、ん、いく、ケツだけで……っ、あっ、ひ――、」
「っあ、しまる……ッ」
 ぎゅうぎゅう、襞がまとわりつきながら精子を搾りとろうとしめつけてくる。しかし、その誘惑をこらえて絶頂の波をなんとか凌いだ。
「は、ぁ、わり、おれだけ……」
「いーよ。まだまだつきあってもらうつもりだし」
 夜は長いぞと言外に宣言すれば、おとかの瞳がうっとりとした色に染まる。
「は、たまんね……」
 おもわず呟いた台詞に気分をよくしたのか、体を倒してキスを求めてきたくちびるを貪れば、中が連動するかのように淫靡に蠢いた。
 尻を掴み、揺さぶって、突いて、めちゃくちゃに快感を与えてやる。
「ぁっゃっ、ん、んん、あ、ま、まて、イった、イった、からぁっ」
「待てって言われて待つおとこがいるか」
「……ッ、くろ、ぁ、ん……っ、あぁあ、ッ!」
 うわずる体を押さえ込み、セックスを覚えたての猿みたいに腰を振った。肌がぶつかり合う音が響いて、夜の気配がどんどん濃密になっていく。
「は、ぁ、あー……、ん、っや、も……っ、そこ、やめろって……」
「そこってどこだよ」
「あっ! う、おまえが、いま、突いてる、とこっ」
 にやりと笑って「雌になっちまうポイントか?」といじわるく問えば、彼方は顔を歪めながらも小さくうなずいた。それから、そっと耳元で告げてくる。
「おればっかいいみたいなの……、やなんだよ。おまえも、乱れろ、ばか」
 ぶだん狂わされてるのはこちらのほうなのだから、このときくらい主導権を渡してくれたっていいだろうとおもうのに、ピストンが自然と緩やかなものになる。
 惚れたほうが負けとはよく言ったものだ。あちらからしたらただ本心をさらけ出しているだけなのかもしれないが、こちらにとってそれはもやは凶器に等しい。あまりの愛しさに呼吸をするのがくるしくなるようで、紅狼はたまらずそれを隠すように舌打ちした。
 ぐちゃぐちゃのとろとろになって、乱れていても。結局のところ、溺れているのは彼方ではない。彼を逃がさないように、必死に手綱を握っている自分のきもちなどやつは知る由もないのだ。それが腹だたしくもあり、すこしだけありがたくもあった。
「そこまで言うなら本気出せよ。もっと――、しめつけろ」
 挑発するように言い放つと、彼方の目がきらりとひかる。それは、獲物を狩る側の瞳だった。
 紅狼はたびたびおもうのだ。自分が彼を捕まえたのではなく、彼方が自分を捕まえたのではないかと。
 襞がざわつき、ねっとりと吸いついてきて、脳にじんとした痺れが走った直後。
 紅狼は、めくるめく官能の世界にいざなわれたのだった。


 ****


 自分の察しがわるかったせいで紅狼を悶々とさせてしまったらしいので、ここしばらく大サービスをしていた。
――そう。実は、彼方はおんなに嫉妬しているわけではないのだ。きちんとした名前がつけられる関係になる前、悋気をもよおしたことがあったのだが、そのときの紅狼があまりにうれしそうだったため、その出来事が強く記憶に残っていた。ゆえに、ばかげた行為を始めた彼へのせめてものやさしさとして、「嫉妬しているふり」を始めたわけなのである。
 ばれたとき、けんかになる予感はあった。だが、彼方には切り札がある。
「だって、嫉妬する必要もないほどに、おれを愛して大事にしてんのはおまえ自身だろ」
 どんな言葉を投げつけられたとしても、臆面もなくそう告げれば紅狼はなにも言い返せないはずだ。
 おとこが、彼方を完全に信頼させるようなことをするのがわるい。今や、おんなと外泊されても慌てるかすら疑問だ。それだけ自分を信じさせるほどの誠実さを見せつけたことを誇って堂々としていてほしいのだが、過去の出来事がそうとうなトラウマを植えつけてしまったのかそれは難しそうだった。だから――というわけではないが、彼方は紅狼に尽くす義務がある。人生を賭して、それをやりきる、覚悟も。
「……すきだ、」
 安らかな寝顔にやさしく口づけ、告白する。彼が起きることはなかったが、満足した彼方はそっと目をとじた。
 恋人と自分の体温であたたかくなったベッドの中は、幸福のかおりで満ちていた。




End.

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