そのいち


「ねえ、もし要が浮気したらどうする?」
 そんな、ありえない質問をしたのは秋南だ。会長が浮気とか……、久木にベタ惚れなんだからねーだろ、と心の中で突っ込む周囲に反して、真理は「そんなことあるわけない」などとは返さず、冷静に問いに答えた。
「ただ魔がさしたってだけなら、ゆるすよ」
 健気だなあ、とふたりのそばにいた生徒がうっとりしたのも束の間、秋南が追及した。
「えー? ただで?」
 もちろん、という台詞が真理の口から出てくると、だれもがおもったそのときだった。
「うん。でも、二度とセックスはしない」
 えっ、と、どこからか声があがった。わかる。おれも今えって声あげそうになった、と心がシンクロしている食堂内の生徒たち。真理はそれが自分と秋南の会話に対してあがったものだとはおもってもいないらしく、まったく気にとめることなく続けた。
「おんなかおとこかは知らないけど、ほかのやつの穴に挿れたちんこ挿れられるとか絶対いや。ゲイのカップルって挿入まではしないことも多いって聞くし、そういう方向にシフトさせてもらうだけだよ」
「わー、真理えげつない!」
 楽しそうに笑う秋南に、周りはどんびきだ。そして、いらぬ心配をしてしまう。
 会長、なにがあっても浮気だけはしちゃだめですよ!
「じゃあ、そのときにもし要が往生際わるく挿入ありのセックスがしたいって迫ってくるようだったら、おれに言ってね。気絶させて病院つれてって、去勢しちゃうから!」
 ヒッ、と息を呑む音が数箇所からあがる。恐怖に震えている者もいる。
「あはは、秋南の冗談はいつも冴えてるよね」
「てへ」
 いやいや久木よく見ろ! 富士川の目、本気だったぞ!?
 股間を押さえながら全力で突っ込むが、それは当然のごとく内心でだ。口に出そうものなら要の玉より先に、自身の玉がなくなる予感がした。
「まあ、要が浮気とかありえないんだけどね。出来心で行動するとろくなことにならないって、真理が隊長をやめたときに学んだだろうし」
「……まあ、ほかにすきなひとができたって浮気はせずに先にわかれてくれって言うだろうしね。あのひと、誠実だから」
「それもありえないとおもうけど、万が一のときはまじで報告してね」
 ありがとう、秋南。
 そう言って微笑む彼は、察しているのかいないのか――。目の前の女子のように可愛らしいおとこが、本気も本気であるということを。


 その後しばらく、ちらちらと心配げな視線を向けられることが激増し、ふたりの会話を知らない要は不思議におもって首を傾げるのだった。




おわり

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