「ん、ふ……、ぁ、か、要さま……?」
 なんですか、いきなり、とでも言いたげな目を向けられ、「それだよ、それ」と返す。
「それ?」
「敬語。それに要さまって、恋人になったのになんでやめねーの」
「癖、みたいなものです。いいじゃないですか。貞淑な妻みたいでしょう?」
 妻という単語に胸がぎゅんっとわし掴みにされたが、ここで絆されてはいけない。
「よくねーよ。周りに、おれらのあいだに上下があるとおもわれるのはいやだ」
「……いきなりやめろと言われても、難しいです」
 予想していた通りの台詞を返され、要はにっこり笑った。
「だろうな。だから――、おれが手伝ってやる」
 てつだう?
 可愛らしく首を傾げる恋人の体をまさぐり、セックスになだれ込もうとする。その意図を察していながらも、真理は抵抗するそぶりひとつ見せない。従順なのはわるいことではないがこうも素直に受け入れられると、ほかのおとこに押し倒されてもこんなふうにおとなしくしているのではないかと心配になってくる。真理は、お世辞にも強いとは言えないからだ。
 秋南を筆頭に、親衛隊の皆が目をひからせているので滅多なことは起きないだろうが、それでもやはり不安は尽きなかった。
「かなめさま…………、」
 首に唇を寄せれば、うっとりとあまったるい声で真理が名前を呼ぶ。
 セックスがすべてではないとおもってはいるものの、若さには勝てないわけで。つきあい始めてから時間さえあれば毎日のように抱いているおかげか、真理はだいぶ抱かれることに馴れてきたようだった。
 自分ですらも果てのない性欲に呆れているというのに、彼は行為に誘えば首を縦に振る。困ったように「今日は一回だけですよ」と言うことはあっても、拒否することはない。そして、要が一度では終わることができずに暴走してしまっても、情事のあとに真理は仕方ないひとですね、と苦笑するだけなのだ。
 もっと、怒ってもいいのに、とおもう。彼がきらわれたくないからすべて受け入れよう、などという思考をいだいていたら最悪だ。それはすなわち、自分の想いが微塵も届いていないことを意味するからだ。
「真理、」
 きらわれたいわけではない。けれど、すこしくらいは文句を言ってほしいし、いやなことはいやだと主張してほしい。
 そんな願いを込めて柔肌に歯型がつくほど強く噛みつくも、痛そうな声をあげるだけでやはり彼は要を咎めなかった。
 乱暴に抱いてやろうとしたって、真理がすきな自分にそれは難しくて、愛撫が荒っぽくなるくらいだ。しかも、真理が目に涙を浮かべて怯えながら「やさしくして……」とおねだりしてくるだけで、それすらもできなくなる。
「ぁ、あ、かなめ……、」
 最中、「さま」が勝手にとれるようになったのはつい最近のことだった。快楽に溺れ始めるとわけがわからなくなって、敬語が剥がれおちていく様が可愛くて愛おしい。
 前戯もそこそこに、とろけた後孔に肉棒をあてがい先端を埋め込んでいく。
「あー……ッ、は、ぁ、あん……っ、ぁあ、おっき、い……」
「は、この調子で敬語なくそうな」
 手伝う、とはこういうことだ。てっとりばやく体に覚え込ませてしまおうというわけである。
 ずぷんと奥まで一気に挿入し、肉壷を掻き混ぜるようにして剛直を動かせば、窄まりがきゅんとしまった。
「ひぃッ! あ、あ、いき、なりぃ……! ふか、い、だ……め、っ」
 真理は急激に与えられる快感に弱く、すぐに泣いてだめだいやだと口にする。でも、それが本心でないことは明らかで、ただ怖がっているだけなのだと知っているため今さらどうこうすることはなかった。
 毎度、熟れた中を掻きわけるようにしてペニスを抽挿し、真理が感じるところはないかと探っているのだが、以前はさほど反応がなかった箇所を突いた際に腰がびくんと跳ねることがあるので、どんどん体が変化してきたようだった。
「ここ、好きだろ」
「っあ、あぁ、ん、ひ、ぁ、は、あぁ、ッ」
 深くまでピストンするのをやめ、前立腺の手前の浅い部位を角度をつけて何度もこすりあげれば、ものたりないのにきもちいいのか、切なげな声を発して真理が喘ぐ。――全身から、凄絶な色気が放たれている。責めているのはこちらなのに、その色香に煽られどうしようもなく興奮してしまった。
「あ! や、おっきく、しな、で……っ、くるし、っ」
 きゅう、と蕾が収縮すれば、先に我慢できなくなったのは要のほうだった。
「くそっ」
「んんーッ! ひ、ぁ、あぁん、はげ、し、ぁあ……!」
 ぐぽぐぽと、繋がっている部分から淫らな音が溢れてやまない。ローションのおかげで抜きさしはスムーズだ。
 荒い息を吐き出しつつ、白い肌の上にぽつんと乗っかっているふたつの赤い突起を摘む。ぷっくり腫れたように膨れているそれを指先でこねくり回していると、真理は身を捩らせてなんとか愉悦から逃れようと足掻いた。しかし、要がそれをゆるすはずもない。
 乳首は舌で舐ることにし、細い腰を手で掴みがつがつと奥を抉る。室内にほとんど悲鳴のような嬌声が響いた。
「あーッ、あー! あッあッ、あぁあ、も、かなめ、いく、いっちゃう、やぁあ……ッ!」
 いつもならばここで、要は真理に好きにさせる。自分は我慢してひとりで先に絶頂させることもあれば、一緒に達することもある。だが、今日は。
「あっ!? や、なに、なんで……、」
 ぎゅっと陰茎の根元を握りしめ、射精をせきとめた。そのまま絡みついてくる襞に自身が吐精してしまわないように気をつけながら、真理の性感帯を穿つ。すると、精子を吐き出すことができないので、くるしい、と彼は涙を零した。
「イきたいか?」
「あっ、ぁ、いきた、くるしい……ッ! は、ぁ、おねが、いかせて……、かなめぇ……っ」
 懇願するその顔は完全に性交に夢中になっているときのもので、気を抜けば要の理性があっという間に崩れ去ってしまう。まだ自分が優位でいられるうちに――と、口をひらく。
「じゃあ、敬語やめろ」
「ぁ、ぁ、やめて、る……」
「ふだんから」
 こんなときに、ずるい。
 そんな心の声が聞こえてくるようだったが、無視して返事を待つ。悦に支配されろくに思考などできないはずなのに、真理はそれでも簡単には折れてくれなかった。
「ひ、ぁ、あ、わか、わかった……っ、どりょくは、する、から……ッ」
 確約ではないのが不満だったが、要ももう限界だった。
 迅速かつ丁寧に入口から最奥までを楔で犯せば、真理は仰け反って甲高い声で喘いだ。それから、根元を握っていた手でそのままペニスを扱き、高みへと追いあげてやった。
「――ッひぁ、ぁ、も、いく、いく……! あッ、あ、かなめの、おちんちんで、いかされちゃう、よぉッ!」
「はあ!?」
「ぁ、や、あぁあーッ!」
 びゅくびゅくと精子を放ちった真理につられるようにして要も射精した。しかし、いつものように余韻に浸ることができない。勘違いでなければ、恍惚とした表情で体を震わせる彼は達する直前、とんでもない台詞を口にしていた気がするのだが。
 内容のいやらしさに興奮するよりも、衝撃が勝ってしまっていた。
「真理さん……」
「ぁ……、はい……?」
「さっきのは、なんだったんですか」
 おれ、動揺すると敬語が出てくるのか、と自身の新たな一面を発見しつつそう訊ねれば、あれ、おかしいな、というふうに真理が首を傾げた。
「秋南が、要さまはこういう台詞を言うとよろこぶって……」
 あいつの入れ知恵かよ! そんでもってやっぱりさまついてるし!
 がっくりと肩をおとしたのはわずかな時間で、おもい返してみると真理の口から「おちんちん」はかなりの破壊力があるということに気がついてしまった。熱くなる股間。元気になる愚息。
 秋南に性癖まで見透かされていることに若干の恐怖を覚えつつ、要はゆっくりと腰を動かした。
「ぁッ……、だめ、です、まだ、なか、敏感、だから……っ」
「……今さら下半身にきた。第二ラウンド入らして。そんで、さっきの単語……、もっと、聞かせて」
「かなめ、さま……」
 あーもーなんか敬語がどうこうとか、どうでもよくなってきたな。
 結局のところ、要は真理にとてつもなくあまく、ベタ惚れなのである。


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