「――というわけだ。だから制裁は心配しなくていい」
 話を聞き終えると真理は眉を寄せ、呟いた。
「……なんだ、それ。じゃあおれが隊長である必要なんて、初めからなかったってこと? むしろ、秋南にめんどうかけてただけじゃん……」
「それは違う。真理に夜伽制度はいらないと言えなかったおれがわるいんだ。――怖かったんだよ。おまえにきもちがばれて、拒絶されるのがなにより怖かった」
「……じゃあなんで、今さらそんなこと言うんですか」
 どうしよう。うれしいのに、うれしくない。要が「香堂」でなければ、この告白を素直に受け入れることができたのだろうか。しかし、どうあがいても彼は「香堂要」だ。香堂家の、跡とり息子なのだ。だから、真理は――……。
「秋南に背中を押された。おれは何度振られたって、たぶんおまえをあきらめることはできないとおもう。だったら、いつ伝えても同じだと気がついたんだ」
 きゅ、と唇を噛みしめれば、隣に座っていた要にそれを指一本で制された。「傷がつくぞ」と。
 観念して、言葉を発する。
「要さまは……どこまで考えてるんですか」
「どこまで、とは?」
「おれは――、ぜんぶ手に入らないなら、初めからなにもほしくないんです。この学園にいるあいだはあなたの心をもらえるのだとしても、外に出た瞬間返さなくてはならないのなら、それを受けとることは、できません。――受けとりたくない」
 だからこそ、夜伽制度なんてものをつくっておきながら真理はそれに参加することはなかったのだ。一瞬だけ要の体を手に入れても、虚しいだけだから。
 そんなこと考えてもみなかった、というように目をぱちくりさせるおとこに、このひととは根本的なところが噛み合わないのだろうな、とぼんやりおもった。石橋をたたいて渡るタイプと、そうでないタイプなのだ。もちろん、前者が真理で後者が要である。
 健司に「だいじょうぶだよ」とこっそり告げたのは、このことがあったからだ。
 まだ親に守られている年齢のこどもである自分たちが、いくら恋をしたってそれが異性ならともかく同性であったらゆるしてもらえるはずがない。家との縁を切り、いきていくのは現実的ではないし、苦労するに決まっている。だから、真理はここでは恋愛をしないと決めていた。――たとえ、恋におちてしまったとしても。その想いがいつか風化するまで、そっと胸の奥にしまっておくのだと。
「……わかった。それじゃ、近いうちに真理に納得してもらえるような誠意をみせようとおもう。そしたらそのとき、おまえの正直なきもちを教えてくれるか?」
 要がなにをするつもりなのかはわからなかったが、自分の決意が鈍ることはないだろうからと、真理はうなずいた。
「はい」
 真剣な色を湛えていた瞳がその返事を聞いた途端に熱を帯び、そのことに驚いている間もなくソファーに押し倒された。
「っ、要さま?」
「おまえの考えはわかった。けど、けどな、おれは、おまえがいいんだよ。初めてはぜんぶ、おまえがいい。お願いだから、今日だけ――。答えを聞かせてもらう前に、今日だけ、おれのものになってくれないか」
 体の一部分にふれている掌が、ひどく熱い。ほしい、と訴えてくる瞳が、不安と期待に揺れている。
 断るべきだった。いやだと言えば、要は解放してくれただろう。――でも、できなかった。真理にはそれが、できなかったのだ。
「…………」
 なにも言わずにふっと体の力を抜いて目を瞑れば、それが了承の証だと気づいたのか、室内の電灯のひかりを遮るようにして要が覆いかぶさってきたのがわかった。
 生まれて初めて他人と交わしたキスは、泣きたくなるほどにやさしく、あまかった。




 口づけを何度か繰り返したあと、互いにシャワーをしてから寝室に移動し、続きを開始した。下肢にふれられ急に冷静になった真理が、準備もなにもできていないことに気がついたためだ。
「……逃げるんじゃないかって、ちょっとだけ疑った。わるい」
 あとからバスルームに入った要は烏の行水かと突っ込みたくなるはやさで髪を濡らしたまま戻ってきて申し訳なさげにそう零したが、言わなければわからないのに、と真理は苦笑した。
「逃げませんよ」
 恥ずかしくて目を合わせることができずにいると、ふたたび唇を奪われる。
「ん……、ふ……」
 初めて、と言っていたのに要の口づけは巧みで、真理の体はすぐに熱くなり、息遣いが荒くなった。
 申し訳程度に身につけているバスローブの隙間から忍び込んできた掌が、じっくり感触を確かめるように肌をすべっていき、おかしな声を洩らさないよう必死になっていると、それを阻止するかのように指先がきわどい部位にふれた。
「っ、ひ、ぁ、」
 胸のちいさな飾りを避けつつも、その周りをくすぐるような力加減で行来するそれに、もういっそさわってほしい、と淫らなことを考えていれば、おそるおそる、といったふうにひとさし指が突起をつついた。
「ゃ……ぁっ、ぁ、ん……ッ」
 びくん、と体が跳ねる。大げさな反応をしてしまった、と恥じているあいだにも要の愛撫がやむことはなく、しかも遠慮がなくなっていく。軽く転がすだけだった乳首をつまんで、潰して。そうされるたび、びりびりとした快感が背中を駆けあがっていくようになってしまって、怖くなった。
「か、要さま……っ、むね、や、やめて……っ、やだ、」
「なんで。ここ、よくねえの?」
 ぴん、と充血した粒を弾きながら訊ねられるも、口からはあまったるい喘ぎ声しか出てこなかった。すると「いいんじゃん」と、いたずらが成功したこどものような無邪気な表情を浮かべて要が笑う。
 バスローブを押しあげるものに気づいてしまえば羞恥にたえきれず頬が染まり、おとこが目ざとくそれを察してしまうものだから、いたたまれなくなった。
「勃ってる」
「いちいち言わないでください!」
 顔を真っ赤にして睨むも、要の顔は予想に反して余裕がなさげなものになっていて、すこし驚く。
「だいじょうぶだって。おれも、もうこんなだし」
「っや……!」
 ごり、と布越しに押しつけられたそれは熱く猛っていて、なにもしていないのに、と真理がふしぎにおもっていると「かっこわりーけど、余裕ないんだよ」と彼は困ったように言い、そのままの流れで下半身に手を伸ばしてきた。


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