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「ねー忠ぃ、いいじゃん、秋穂くんわたしにもわけてよ。あの小動物みたいで可愛い感じ、サイコーに好み」
「ふざけんな。とっとと帰れこのクソビッチ」
 荒い口調に、低い声。初めは別人かとおもった。しかし、それを放っているのはここの家主でなければおかしいし、現実から逃避するのはよくないと必死に飛びそうな意識を掴む。
「必死に猫被っちゃって、クソウケるんですけど」
「うるせえ。それはおまえもだろうが」
「だってぇ、秋穂くんうちらみたいな
人種苦手そうじゃん? 仲よくなるならちょっとくらい演技しなきゃっておもって」
「好みも考えかたもそっくりすぎてほんとうにいやになるわ。……あいつを貸してやる気はない。あきらめろ。この先もちょっかい出すようなことがあれば容赦しねえからな」
 今まで見てきた人物像とはまるで別人のふたりに困惑していると、一瞬空気が突っぱった。
「おーこわ。はいはい、わかりましたよ。……本気なんだ?」
「……そうだ」
 その瞬間、交わされた会話に頬が熱くなる。
 そうだ。たとえ猫を被っていたのだとしても、忠さんはぼくを大切にしてくれていた。そのことに、うそ偽りはない。こちらが本性だというのなら、それを遠慮なく曝してほしい。ちゃんと、受け入れるから。
 これ以上盗み聞きするのも、と慌てて鞄から下着をとり出してバスルームへ向かう。
 シャワーをしているあいだも体が期待して、火照ってどうしようもなかった。頭から水を浴びればおさまるかといったらそういうわけでもなく、ふれられる前から胸やお尻がじんじんしている。はしたないとおもうのに、欲望を鎮めることができなかった。
「秋穂くん、着替えおいておくからね」
「あっ、はい、ありがとうございます」
 突如ドアの向こうからかけられた声に心臓が飛び出しそうなほどに驚いたが、すぐに気をとりなおして体をごしごしと洗う。
 なんとか表面だけでも平静を保っているふうに見せかけたかったのだけれど、髪を濡らしたまま順番を待っていた忠さんのもとへ向かった際、「……色っぽい顔してる。先に寝室で待ってて」と囁かれてしまい、己の中のはしたない願望を見透かされたような気がして頬がいっそう熱くなった。
 言われた通り、これから体を重ねる用途に使う部屋に入って電気をつけずにベッドに倒れ込む。すう、と息を吸えば胸いっぱいにひろがる忠さんのにおい。いいかおりなのに女性らしくはなくて、ふしぎとおちつく。
 先にちょっとだけ弄ってしまおうか。でも、バレたら恥ずかしい。
 そんなことを考えて悶々していると、けっこうな時間が経っていたらしく「お待たせ」と言って忠さんが静かに寝室の扉をひらいた。
 慌ててベッドサイドのランプを灯し、体を起こす。
「秋穂くん」
「……忠さん、」
 骨ばっていて、長くすらりとした指先が輪郭をなぞるように動かされた。壊れるんじゃないかと心配してしまうほどに鼓動が激しくなり、分泌された唾液をゆっくりと飲み込む。
「あ、あの」
「ん? なに?」
 頭上にあるのは穏やかな恋人の顔。だけど、ぼくは彼のぜんぶがほしかった。
「さっき、下着の替えをとりに戻ってきたとき、香名子ちゃんとの会話を、すこしだけ聞いてしまって」
 ぴしり、固まる忠さんに矢継ぎ早に弁明する。
「ぼく、それで、あの、素の忠さんでも、気にしないというか、その、……ずっと、我慢させていたんじゃないかとおもって……」
「違う!」
 これからはふつうに接してください、と続くはずだった台詞は否定の言葉に遮られてしまった。
「違うんだ、その、確かに香名子への態度がおれの本来の性格ではあるんだけど、秋穂くんに対しては……、おれが、そうしたかったんだ」
「ええと、それはどういう……?」
「やさしくしたいし、大切にしたい。そういうきもちから今の接しかたにおちついただけで、むりは全然してなくて……」
 信じてくれ、と必死に訴えかけてくる忠さんは、根本的な部分で勘違いしている。そんなのはどうだっていいのだ。目下の問題は、それじゃない。
「……あの、実はぼく、隠し事をひとつしていて」
「え」
「な、なんか、Mなのか、やさしいセックスだと、たまに、こう、ちょっとだけ、ものたりないというか、もっとしてほしいって、おもって、しまって」
 絶句している恋人に、真っ赤になりながら縋りつき、蚊の鳴くような声で告げた。
「……もっと遠慮なく、激しく犯してほしいんです」
 一瞬の静寂ののち、「秋穂くんっ」と余裕のない声音で名前を呼び、忠さんはぼくに噛みつくようなキスをした。
 脳がとろけるような、あまったるいいつものそれではない。なのに、こちらのほうが官能的で下半身にダイレクトな刺激がくる。
「んっ、ん、忠さ、ぁ……っ
 むしゃぶりつくような口づけにがんばって応えていると、服の中に手が侵入してきた。
 いつもより強めに、ぐりぐりと乳首をこねられる。それだけで、びくんびくんと体が跳ねてしまうぼくは、やっぱりMなのかもしれない。
「あっ、ひ、ちくび、そんな、つよく……っだめ、ぁ、とれちゃうっ
「ほんとに? ずっと、こうされたかったんじゃないのか?」
 がり、ときつく歯をたてられるとそれだけでもう絶頂してしまいそうなほど興奮した。
――ああ、もう、だめ。
「ん、んそう、ですっぼく、忠さんに、もっと、いやらしいこと、されたくて……っ
 自ら下着とズボンを脱ぎ捨て、ひくつくアナルに指を添える。そして、ゆっくりとそこを中が見えるようにひらいてみせた。
「ぼくのおしりの穴……、忠さんのおちんちんで、おまんこにして……っ
「秋穂……!」
 獰猛なけもののように喉の奥をぐるると鳴らし、蕾にむしゃぶりつかれ、「あん」と媚びたような喘ぎが洩れた。呆気なくとろりと綻んだそこにローションをまとった指が追加され、淫らな音が響くほどに激しく動かされる。
「秋穂はずっと、おれに、こうされたかったのか?」
「あっあっあっうん、んっそ、ですぼく、おまんこ壊れるくらい、指マンしてほしかっ……っあぁあ
 じゅぽじゅぽじゅぽ、と高速で抜き挿しされ、ひんひんと喘いだ。
 中がどうしようもないほど熱くて、きもちよくて……。ぼくってこんなに淫乱だったの、と絶望するべき場面で浮かんできたのは期待。はやくおっきなおちんちんでめちゃくちゃに突かれたいって、はしたない願望がうまれてやまない。――けど、今この瞬間は指での愛撫を堪能したかった。

 
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