天使なんかじゃない | ナノ


「お疲れさま。……岩戸のチームはなかなかいい感じに宝を集めたようだな」
「後輩が優秀だったんだ」
 出口のすぐそばにいたおとこ――おそらく生徒会の書記だ――に結果を報告したあとは、体育館に一旦戻らされた。そこで、時間がくるまで反省会をおこなうらしい。
 てきとうにあいている場所に円をつくって座り、自分がゲームに貢献できたとおもう点、もっとこうするべきだったと反省する点、それぞれをひとりずつが述べ、それに対する意見を言い合った。
 こんなところか、と反省会をてきとうなところで終わらせたあとは、雑談タイムだ。
 この学園の生徒と必要以上に親しくするつもりのない天音は、話を振られてもそっけない態度で短く答えを返していたが、最後の迷路を切り抜けた方法についての議論になれば、あれを強行した張本人なので口を噤んだままではいられなくなった。
「しかし、神条は妖精どうしにコンタクトをとらせるなんてこと、よくおもいついたな」
「ね。しかも、妖精ってとこがポイントだよね」
 三年生のふたりがそんな会話を交わしていると、二年生のふたりも察したようにうなずく。そんな中、衛だけが首を傾げていた。
「妖精は、戦う力はほとんどないが、探索役として優秀だ」
「人間の思考を妖精が一方的に読みとることはできても、彼らが自らの意思をこちらに伝えるには詠唱破棄できるレベルの絆がないと不可能なんだ。同族どうしなら簡単にテレパシーが使えるから、神条はそこをうまく利用したってことだね」
 龍太郎、それから清史に説明され、衛は勉強になります、とこくこく首を縦に振っている。
「知識だけはある、って言ってたけど、あんな土壇場でそれを活かせるなんて、神条、才能あるよ」
 翔斗に褒められるも、天音はなんともいえない表情を浮かべることしかできなかった。
 自分はうまれて間もなく息をするように魔法にふれ、精霊と生活をともにしてきたのだ。こんな発想、朝飯前どころか唾液を飲み込むように自然と出てくる。代案だっていくつも浮かぶ。ひとりで解決できないこともなかったが、それをしたらほんとうにこのゲームをだいなしにしてしまうとわかっていたから、龍太郎に協力してもらったのだ。
「水落がいい感じだって言っていたからな。もしかしたら、このチーム、上位に入れるかもしれないぞ」
 水落社(みずおちやしろ)。名前だけは智博から聞いていたが、姿をじかに見たのは初めてだった。
 やはりあのひとが書記だったのか。
 短く切りととのえられた青い髪がうつくしい端正な顔をしたおとこのことをおもい出していると、「はぁい、みんなお疲れさま!」と壇上にいた瑞希が声を発した。
「ゲームは楽しんでもらえたかな? 実は、ずっとここにいたぼくもお手伝いしてたんだよー。気づいた子はいる?」
 はーい、と手をあげた人間の数は多くない。今回のゲームはかなり大がかりだった。魔法だけでなく、召喚獣の力も借りているに違いない。
 先ほど天音が呼び出した妖精も、「召喚獣」というくくりの中に入っているものだ。召喚獣とは、魔法を使える人間以外の生物のことを示す単語なのだ。複数の属性を持っているものや人語を話せるものは稀だが、彼らの強みは得意分野が必ず存在するということ。攻撃、幻術、回復、強化、結界、等々。召喚獣のランクによってそれらの強さは異なるが、自分が不得手な分野や属性のカバー、または得意分野をさらに伸ばすための補助要員として重宝されている存在だ。瑞希はずっと、魔力の提供をおこないながら召喚獣を使役していたようだった。意識を分散させるとなるとかなりの集中力を要するはずだが、さすが生徒会役員といったところか。それを苦にしているようには見えなかった。
「とくに大きな問題もなく無事終了してぼくらもほっとしてるよ! みんな、お疲れさま! じゃあ、さっそくだけど上位チームの発表と景品の授与をしていくね!」
 会場は一気に盛りあがりを見せる。トップスリー。そこに入って願いをかなえてもらうために皆がんばっていたのだから、当然だ。
「じゃあ、十位からいきまーす! 四位までの景品は食堂のとくべつ席の利用券と、食事無料券一ヶ月セットでーす! 社、だいじょうぶ?」
 こく、とうなずいた社に瑞希は満足げに微笑み、「では十位の発表です!」と指をぱちんと鳴らした。すると、スピーカーから音楽が流れてくる。
 ジャカジャカジャカジャカ……ジャン!
 という、お決まりの音がやむと、社がおちついた声で入賞チームを発表していった。
 とくべつ席というのはよくわからないが、一ヶ月食事無料というのも破格な褒美な気がする。しかし、やはりみんな目標は三位以内なのだろう。名前を呼ばれるたびに、歓声と悲鳴があがった。
 十位から四位までが出揃い、 壇上にあがった彼らに優が「おめでとう。がんばったね」とねぎらいの言葉をかけながら券を手渡ししていく。副会長のファンであれば、もうあれだけで大歓喜するのではなかろうか。実際、泣いているのがひとりいた。
 彼らがもとの場所に戻ると、いよいよトップスリーの発表となる。上位に入れるかもと万喜夫は言っていたが、このチームは結局呼ばれずじまいだ。だめだったのか、とぼんやりおもっていると、「三位、岩戸万喜夫チーム」と社が発表した。
「は……」
「え」
「まじ?」
 わっと歓声があがり拍手が起こる。その中をチームの皆が戸惑いながら進んでいくと、壇上で待っていたのは焔だった。
「おめでとう。ひとりずつ、望みを聞こう。公平なものにするため、後日受けつけるということはできない。なければなし、と答えてくれ」
 どんなやつでも、入れないとわかっていても、「もし入れたら」と考えないことはないのだろう。リーダーの万喜夫すらそわそわしている。



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