天使なんかじゃない | ナノ


「んん? ……あ、これヒントが入ってる箱だったみたい」
 なにも起きないことに安堵し、清史と合流して半分に折られた紙をひらけば、そこには絵が描かれていた。動物――おそらく猫だ――が四匹いるが、左から右に向かって大きさが変化している。徐々に大きくなっているのだ。
「ヒントの内容はともかく、この絵は……だれが描いたんだろうか」
「へたくそだね」
 龍太郎は濁したというのに、翔斗がずばっと言い放つ。
「うーん、たぶん……、神保じゃないかな?」
「えっ」
 清史の台詞に衛が小さくびっくりしたような声を発した。正直天音も、内心で驚いていた。
「本人も自覚はしてるみたいだけど、美術は苦手らしいから。逆に木ノ下は美術部に入ってて何度も賞をもらってるし絵はすげーうまいよ」
 絵は、という部分に含みを感じたが突っ込まずにきた道を戻っていく。謎をとくのは歩きながらでもできるので、各自が考えながら。
 空間の中をひとつひとつ確認していては時間がたりないだろうからと、いくつかに絞って選んだ道で、三つほど宝を発見した。それが入っていたどれもに魔法がかかっていたが、まだ難易度は高くないのか苦戦はしなかった。罠は同じ属性の魔法で解除するか、べつの属性を使いより強い力を加えて壊すかのどちらかが有効なようだが、前者のほうが魔力の消耗がすくなくて済むためできる限りはそうして回避することにした。存在に気づかぬままトラップを発動させてしまった場合は、全員で防御を固める手筈になっている。
 そうして、半分ほどの時間が過ぎたころ。ヒントの数が三つになり、宝も七つと増えていた。そして、その宝はそれぞれかたちが異なる。
 猫が描かれていたヒントのほかは、数字が書かれた紙とうさぎ、猫、犬、ねずみと四種類の動物が描かれた紙とがあり、これだけの情報が揃えば宝の価値の判断は簡単だった。
 左から四、一、三、二。そう数字が記された紙。それにほかの紙を示し合わせれば、猫の紙で宝の大きさの優劣が、動物の紙で宝のかたちの優劣がわかる。宝箱の大きさ自体が中身によるものだということはすでに把握済みであったため、一番小さな箱は見つけてもスルーして次を探すようにした。
 もしかしたら数字は絵が描いてある二枚のヒントの両方に対応しているわけではないのかもしれないとも考えたが、その場合は数字が書かれた紙になにかしらの目印があるか、そもそも絵のほうが四匹ではない等、もうすこし詳しいヒントや気になるずれがないと謎がとけない。時間制限のあるゲームで、発見するのが大変な量のヒントを用意しているわけでもなかろう。幻影を見せる魔法がかかっている気配はないし、一応炙り出しなんかもしてみたが紙に細工はなかった。よって、天音たちのチームはとりあえず今の推理を正しいものとして、宝を求めて歩いていた。ヒントの箱はそもそも色が違うので、あける必要はないと判断し、罠を警戒して近寄ることすらしなかった。
 ちなみに、真っ先にヒントを解読したのは衛だ。なにか言いたそうに口をもごもごさせていたので、天音がなんかあるなら話せ、と脇をつついたら説明してくれた。
「そろそろゴールの位置だけでも把握しておいたほうがいいかもね」
 翔斗がそう提案すれば反対する者はなく、万喜夫が正規のルートを目指し始める。――が、どうやら天音たちは宝に気をとられすぎたらしい。慎重に進んでいたためライフに余裕はあったが、時間のほうに余裕がなくなっていた。正規ルートも一本道ではなく、入り組んだ迷路になっていたのだ。
「これは……、ちとやばいかもな」
 焦ったように万喜夫がそう呟いたのを、皆が耳にしていながらも無言を貫いた。半ばあきらめムードが漂ってきたころ、天音は周りに気づかれないよう小さくため息をついた。
「……白森先輩、光の妖精、使役できます?」
「え? あ、ああ」
「じゃあ、おれの妖精に道を探らせるので、彼女と意思の疎通をはかりながらあとから追うよう指示を出してください」
「わかった」
 龍太郎はなにも聞かずに呪文をとなえ始めたが、清史に「なにする気?」と訝しげな目で見られ、時間がないのに説明させるな、とおもいつつ口をひらく。
「もう、道に迷ってる時間がないのでいきどまり以外の道を妖精に探してもらいます。この子は闇属性の壁ならすり抜けられるはずなので。それで、その情報は同じ妖精の『彼』に伝えてもらい、おれたちはその通りに進めば最短ルートで出口にたどりつけるって寸法です。ただし、罠の考慮はしてないので全員で駆け足になりながら各自が身を守ってもらうことになりますが。まあ、まだ回復ポイントが一ヶ所残ってるし、どうにかなるでしょう。……リーフ。頼んだよ」
 言い終えたところで天音の背からひょこりと現れた、掌サイズの小さな妖精がひかりの粉をはらはらと散らしながらくるりとターンし、挨拶するようにお辞儀をしたのちに飛び立った。
 龍太郎が召喚したのは雄の姿をとった妖精で、彼の指をたてて身を隠すようにし、顔を真っ赤に染めている。
「……? どうした? なにを恥ずかしがっているんだ?」
 ふしぎがる主人になんでもない、と緩やかに頭を振る妖精に目だけで微笑めば、ぺこりとお辞儀をされた。
 リーフはそれなりの力と地位のある立場の妖精だ。彼は、彼女の下に属する者だったらしい。しかし、あからさまに態度に出されても困る。
「リーフの指示に従って、案内してもらえるかな?」
 そう訊ねて召喚された役目をおもい出させてやれば、彼は慌てて龍太郎の手から離れて先頭に出て、速度をあげて飛び始めた。
「ほら、さっさといきましょう」
 彼らは呆気にとられていたが、天音が小走りで妖精のひかりを追いかければすぐに後ろから足音がした。
 すこしずるい手を使ってしまったかもしれないが、まあ許容範囲内だろう。ここまでがんばったのにすべてが水の泡になるのは、チームの皆がさすがに気の毒だ。
 こちらを捕まえようと迫りくる植物の蔦や唐突に存在を表すおとし穴や、進行者を阻む落雷などのギミックがあったが、皆必死の形相でむりやり通過していく。
 そうして、今までの慎重さをかなぐり捨ててゴールに繋がる道を走り抜けたおかげで、なんとか制限時間内に外へ出ることができた。
「ぎりっぎり、セーフ、だったな……」
 息を切らしながら言う万喜夫にチーム一同が同意しつつ苦笑した。
 宝は迷ったおかげというかなんというか、最終的に十二個になっていた。



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