天使なんかじゃない | ナノ




 ****


 チームわけが発表され、周りが浮き足立っているうちに新入生歓迎会当日を迎えた。
 体育館に集まった全校生徒は生徒会の指示に従い、きれいに割り振られた番号順に並びをつくった。
 一チーム六人が百組。この団体をどう動かしていくのか、焔や優の手腕を拝見させてもらおうと天音はステージに視線を向けた。
「みんな、チームのメンバーは揃ったかな? もしまだだよってところがあったらリーダーが持ってる番号の板に魔力を流し込んでねー」
 マイクを持っているのは、生徒会会計だ。天音は名前しか聞いたことがなかったので、今後近づかないようにするためにまず顔を覚えることにした。
 あちこちに跳ねた金色の毛と、それを押さえるためなのかお洒落なのかはわからないピンが、左右にたくさんついているのが特徴か。目の色は灰色。女性らしさがあるわけではないが、くりっとした目と笑顔が可愛らしい人物だ。
 この行事には基本的に全校生徒が参加しなければならないようだが、もちろん体調がわるかったり家の事情で学園を離れていたり、理由があれば欠席できる。穴をあけるわけにはいかないため、人数が不足したところには風紀の一年が入れられるようだった。
 風紀の上級生は人気があるが、下級生はそうではないらしい。理由は至って単純。風紀には、魔力をもて余している生徒が入れられる。そして、それを制御できるようになるのには時間が必要で、一年生はまだ「危ないやつ」という認識だ。だから、人数の穴埋めに派遣された生徒は、むやみに頼られることも騒がれることもないらしかった。
「よし、みんな揃ったみたいだね。じゃあ、ルールの説明をするからよく聞いてね」
 迷路は生徒会がつくった大きな結界の中で形成されており、普通に出口を探すだけならば三十分もかからず出てくることができる代物だが、宝箱は突きあたりにしか存在しない。しかし、それをあけるまでにはいくつかの罠を回避せねばならず、ダメージを受けることのできる回数は一人二回。それ以上トラップにかかればその生徒は離脱、チームもそのまま失格となってしまう。回復ポイントは二ヶ所で、いずれも正規のルートに設置してある。そこを通ると自動的に減っていたライフが一回復するが、ダメージを受けていない人物も自動で回復を使用したことになってしまうので、いつ通るかきちんと考えなければならない。
 制限時間、六十分以内に迷路から出れなければ失格になるが、ただゴールするだけでは得点がたりず、上位入賞は難しくなる。タイムボーナスはあまり大きくないので、ぎりぎりまで宝を探すほうがよさげだ。
 宝によっても与えられるポイントが異なるようだが、どれが高得点なのかは教えてくれないようだった。ヒントが迷路内にあるらしく、それを解くにはチームメンバーで知恵を出し合って推理しなければ難しい。
 個の力だけでどうにでもなる内容ではなく、協力し合うことがうまい具合に必要なゲームになっている。
 禁止事項は二つ。仲間への暴行と、迷路を壊して進む行為。生徒会と風紀が見守っているため、違反をすればすぐにバレるらしい。
「まあ、こんなところかな。ゲームを始める前に、十分間だけチームメンバーと話し合う時間をとるよー。そこで、迷路をどう進むか大まかに決めてね!」
 一度に二十組のチームが指定された教室から迷路に入り、三十分後に次のチーム、さらに三十分後にはその次のチームが、というぐあいに進行するようで、すべてのプログラムを終えるまで、待ち時間がだいぶ比率を占めるのだろうが自分の組のメンバーや周りと話や反省会等をしているうちにあっという間に歓迎会は終わる予感があった。
 霞ヶ丘学園のほかにも、いくつか魔法使いを養成する学校は存在する。だが、ここにいる生徒はやはり「エリート」と呼ばれる者の輩出が桁違いで、国を裏から動かす要職に就くために必死になっている人間も少なからずいるようだった。
 高等部の一年はともかく、二年、三年は進路の話を教師からわずらわしいくらいに聞かされることになる。
 優秀な人物は、どんなところからでも成長するための糧を得る。下級生からだって、自分より成績がずっとわるい相手からだって。新入生歓迎会はそういう上級生の姿を、一年生に見せるための場でもあった。
「よし、じゃあ簡単な自己紹介と作戦会議を始めよう。おれらは三組目だから、方向が固まったあとはしばらく雑談でもしてようや」
 ぐるり、大きな体を反転させてそう言ったのは、リーダーのおとこだ。ひとつのチームには基本的に一、二、三年生がふたりずつ入っていて、リーダーは三年生のどちらかから実力うんぬんは関係なしにランダムで指名をされる。
「おれはこのチームのリーダーをさせてもらうことになった三年Bクラスの岩戸万喜夫(いわどまきお)だ。属性は土。よろしくな」
 名前の通り岩のような屈強な体型をしている万喜夫に、同性として天音は若干の羨望を覚えた。
「学年順でいいよね? 次はおれね。三年Dクラスの鶴貝翔斗(つるがいしょうと)。属性は風――と、いちおう雷も持ってるんだけど、こっちはあんま使いこなせないから期待しないで」
 サッカーやバスケなどのスポーツが似合いそうな爽やかな容姿のおとこが名前と属性を告げると、ではわたしから、と二年なのであろう生徒が口をひらいた。
「二年Aクラス、白森龍太郎です。属性は光」
 こちらは、外見と名前が見事に一致しない。儚げで美しい見ためにこの名は、控えめに言っても激しいギャップがある。性格や魔法の使いかたはドラゴンのように荒々しいという可能性もなくはないが、まあないだろう。
「お次はおれかあ。二年Sクラス加賀美清史(かがみきよし)。属性は水だけだけど、実力は申し分ないとおもいまーす。よろしく」
 Sクラスは選りすぐりの人材を集めたクラスであるため、嫌味っぽく聞こえる発言も悪気があるわけではないのだ。ただ、ほんとうに自信があるからそう言っているだけなのである。
 おれは最後でいいや、と口を噤んでいると、ちらちら視線をこちらに向けてきていた小柄な男子がおずおずと声を発した。
「え……と、一年Eクラス、小枝衛(こえだまもる)です。属性は炎と岩なんですけど、器用貧乏らしくて……。まだどっちも中途半端にしか使えないです、すみません」
 ふむ、と頷く周囲に小さい体をますます縮めてしまう彼は小心者のようだが、それにしては器も魔力も大きく感じる。こういう子が来年あたり頭角を現すのかもしれない。――なんて考えているうちに、自分の番がきた。



prev / next


bookmark
back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -