天使なんかじゃない | ナノ


「隊が結成されればもっと増えるとおもいますが、今のところは二十人強ですね。隊長は天音さまのご希望がなければぼくが努めさせていただく予定です。副隊長候補は三年の銀月です」
「お初にお目にかかります、天音さま。碓氷銀月(うすいぎんげつ)と申します」
 銀月と名乗った生徒は、その名の通りひとつにまとめられた銀色の長い髪が美しい人物で、彼にも親衛隊がいそうな気がして仕方なかった。
 ――というか、なんだか美人率が高い。もっと体格のいい生徒が集まっているのだろうと想像していたため、すこし拍子抜けしてしまう。
 憧憬のみの生徒ももちろんいるが、親衛隊にはやはり欲望に濡れた瞳をしている者が多く、親衛隊のことをよくおもえない理由もわからなくもないと感じる。しかし、ここにいる彼らはそういったどろどろとした感情をいだいている人数の割合が低いようだった。
「……すみません。結論を出す前に、なぜおれの隊を結成しようとおもったのか、その理由を聞かせてもらえますか?」
 よくぞ聞いてくれました!
 そう言わんばかりに表情を明るくした柩から放たれたのは――予想外すぎて、いっそ笑えてくるような答えだった。
「その国宝級の美しさを、絶対に守らなければという意思がふつふつと湧いてきて、抑え切れなくなったからです!」
「は、はあ……?」
「見返りを求めるつもりはないのですが、日々のスキンケアについてお話していただければぼくはほかにはなにも望むことはありません!」
 なんなのこのひと、と珍しく戸惑いをあらわにする天音に、銀月がフォローを入れてくれるとおもいきや。
「ええ、わたしもそれについてはぜひお話を聞かせていただきたくおもいます。天音さまのお肌……、なめらかで、白くて、ほんとうに綺麗で、羨ましい限りです」
 うんうん、と頷く周囲に天音はここには自分の味方はいないのだと瞬時に理解した。
「ええと、すみません。おれ、ケア? とかはぜんぜんしてないので期待に添えることはできないかと……」
 ぴしゃーんと雷にでも撃たれたかのような表情で固まる生徒たちにたじろぎつつそう言えば、いちはやく復活した柩が感極まった様子で手を握ってきた。
「さすがです天音さま! ぼくたちとは体のつくりから違うってことですね……。はあ、ますます憧れてしまいます」
 うっとり、恋する乙女にも負けない可憐さで残念な台詞を口にする彼に、力が抜けてしまう。
 もう好きにしてくれ、とおもいながら「隊は、つくりたいならどうぞつくってください」と許可を出せば、柩と銀月は目に見えるほどによろこんだ。
「ありがとうございます! ぼくたち、絶対に天音さまにはご迷惑をおかけしないよう活動させていただきますので!」
「……ちなみに、親衛隊ってふだんどんな活動してるんですか?」
 興味本位で訊ねてしまった問いに、答えてくれたのは銀月だ。
「親衛対象のかたが快適に学園生活を送ることができているか見守ったり、なにかにお困りのようでしたらさりげなくお力添えをしたり、ほかにもいろいろです。まあ、わたしたちの隊は週に一度の会議で天音さまのお肌の調子について報告することを義務とするつもりなのですが、こういう隊は珍しいですね」
 だろうな! と突っ込みたくなる説明をなんとか無言のまま聞き終えると、天音は「では、これからよろしくお願いします」と小さく頭をさげた。
「わっ、天音さま、ぼくたちに頭なんてさげないでください! 隊を発足するのはぼくらがそうしたいとおもったからです。活動だって、自分から進んでやるんです。天音さまは『迷惑かけるなよ』くらいのきもちでいてください」
 柩の瞳は本気の色をしていて、すこし変わった部分があるものの、この学園にきてまだ日が浅い自分にもこういうひとが隊長の鑑といえるのだろうとわかった。
「でも、あなたはおれに初めて接触したときから迷惑をかけないよう周囲に気を配っていてくれたし、おれとしては『あなたに』迷惑をかけられることはないとおもってます」
 正直な想いを告げれば彼は瞠目し、くしゃりと顔を歪めた。
「ぼくには、もったいないお言葉です。……ありがとうございます、天音さま。ご期待を裏切ることのないよう、精一杯隊長を務めさせていただきます」
 ――こうして、天音の親衛隊が発足した。そして、やはり銀月にも親衛隊があったようで、隊持ちの生徒がふたりもいる異例の親衛隊として、天音の隊はまたたく間に有名になったのだった。


 ****


 この学園は初等部から高等部までがエスカレーター式でさらには全寮制ということもあり、途中から入学してくる生徒は珍しい。しかし、まったくいないわけでもなく、そういった人物のために、そしてその期の生徒会の実力を知るために、新入生歓迎会はそれぞれ初等部、中等部、高等部で毎年おこなわれる。今年も、例に違わずそれが開催されるという知らせがやってきて、天音のクラスもその話題で持ちきりになっていた。
 魔法で生徒ひとりひとりに配られた紙には歓迎会の概要が書かれており、それに軽く目を通せば今年度はチームを多数つくり、迷路をクリアするというものらしかった。ゲームの運営をしなければならないためチームに生徒会の人間は入らないようだが、実力や成績、素行などを加味して公正なチームわけがされるらしく、皆がはやくもだれだれとチームになりたい、と希望を述べ始めた。
 迷路にはトラップや体力回復ポイント、宝箱があるらしく、まるでゲームのダンジョンを現実に再現してみせたかのような内容だった。トラップを回避できずに、体力をすべて奪われたらゲームオーバー。制限時間もあり、宝に目をくれているとタイムアップで失格になる可能性もある。どんなにはやく出口にたどりついてタイムボーナスのポイントをもらったとしても、宝のポイントが低ければ上位にはくい込めない。ポイントが高かった三チームには豪華な景品があるため、生徒たちはそれを狙って毎年必死になるようだった。
 よく考えられたゲームに天音は内心感心する。だが、かなり大がかりになるはずだ。役員は相当自信がある実力者たちの集まりか、ただのばかの集まりかのどちらかに違いない、とおもいながらも、天音はすくなからずこのイベントを楽しみに感じてしまっている自分がいることを否定できなかった。



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