いち

 はあ、とため息を吐く幼なじみにおれは話しかけた。絶世の美少女、ミツキちゃん(というらしい)のことを聞き出すためだ。
「なにため息ついてんだよ」
「……義友」
 おれは、とんでもないことをしてしまったのかもしれない。
 非常に悩ましげな表情でそいつが語り始めたのは、彼女がいないおとこからしたらものすごく羨ましい状況の説明でしかなかった。
「……捕まる覚悟でレイプした子となぜかつきあえることになって? 暇さえあればセックスに励んでて? しまいには毎回ゴムなしの中出しだとぉ?」
 け、けしからん! と、興奮しつつも青ざめるおれ。毎回中出しとかいいなあとおもう反面、それはやばいのではと当事者でもないのに冷や汗が流れる。
「ま、まあこのさい経緯はおいておこう。けどな、中出しはやばくねえ? 彼女ピル飲んでんの? 妊娠させたらシャレになんねえぞ……」
「ピル……? 飲むわけない。妊娠なんてしないし。いっそ妊娠したらいいのに。そしたら、あいつのことずっと縛れる」
 病んでいる、と捉えられても仕方ないような発言をかます堅一におれは混乱を極めていた。なんでこんなふうに育ってしまったのか。おれが、まっとうな道を歩むよう誘導してやらねばならなかったのか――。
 そう、悶々していると。
「問題はそこじゃない。美月がコンドームを嫌がるってとこだ」
「うう……、おまえあの美少女に『ゴムはしないで』とかねだられてんのかよ、ふざけんな」
「やっぱ、最初がまずかったんだよな……。生の快感を覚えたせいで、『ゴムしてると、きもちよさ三割くらい減る』とか言うんだ。おれもないほうがいいけど、もしあいつが腹でも壊したらとおもうと怖くて」
 ん? と首をかしげる。なぜ、生でするとミツキちゃんが腹を壊す可能性が出てくるのか。そういえば、さっき彼女は妊娠しないって言ってたな。なんでだ。
「ミツキちゃん、体弱いのか?」
「いや。尻の中に出したままだと腹下すらしいから」
「えっ、なんで尻?」
 あれ、とすこしびっくりしたような顔で、堅一は言い放った。
「言ってなかったか? 美月はおとこだ」
「えっ……」
 おとこって、なんだっけ?
 そんなふうに現実から目を背けてしまうくらいにはおれは動揺していた。
 だって、そこらへんの女子では到底及ばない、見た目にじゅうぶん気を遣っている女子大生に「次元が違う」とまで言わしめた彼女――いや、彼、というのが適切なのか?――が、まさかおとこの娘だったなんて……!
「…………今度、ちゃんと紹介しろよ」
 おれにはそれだけ言うので精一杯だった。これ以上考えたら頭がおかしくなりそうだ。
 人類の神秘を感じた。その一言ですべてを済まさせてほしい。


 ****


 バイト終わるの部屋で待ってる、という可愛らしい彼女から送られてきたかのようなメッセージを休憩中に確認したおれは、帰りたくてたまらなくなった。
 今日はどんなふうに美月の体を堪能しようかと考えて、バイトを乗り切った。
 時間になり、店長から「あがっていいよ」と声をかけられるとおれはできる限りのスピードで帰り支度を終え、「お疲れさまでした。お先に失礼します」と挨拶し、颯爽と帰路について自転車を漕ぎ始めた。
 仕事中に悶々とし、今日美月にさせようとおもいついたのは「潮吹き」だ。
 自分はおんなよりも可愛いと豪語するだけっあって、彼はきちんと努力をしている。おれの洗面所にはよくわからない洗顔料や化粧水やローションなどがおかれるようになった。美月の肌はいつでもつやつやしていて、さわるともっちり吸いつくような感覚がするのに決して脂っぽくはないのだ。
 そんな彼は、その愛らしくも美しい外見に反して卑猥な台詞をためらいもなく口にする。快感に弱い体がたまらない。ほんとうに、なんで性別がおとこなのだろう。女子よりもずっと、可愛くて敏感で、えろい穴を持っているのに。
 潮吹きをささせようとおもったのは、よりいっそうおんなに近づけるためなのかもしれない。美月の性別に文句があるわけではなくて、男子なのに突っ込まれて絶頂して潮を吹き、戸惑う様子が見たいのだ。そして、ことさら言葉で嬲ってやりたい。きっと、美月は泣きながら腰を跳ねさせてよろこぶだろう。
 ……と、夢想しているとマンションに着いていた。
 駐輪所にチャリをとめ、鍵とチェーンをかけて中に入る。
 五階にある自分の部屋へとエレベーターに乗って向かうが、ゆったり感がもどかしい。
 扉がひらくと、めあてのドアへと一目散に向かう。
 鍵をあけ、男子にしては小さめな靴が揃えて端におかれていることにきゅんとし、リビングへ入りつつ「ただいま」と言ってみた。
「おかえり」
 義務的な返答だったのだろうけど、おれは感激して涙が溢れそうだった。美月が嫁に見えた。ソファーに座ってテレビを見ながら夫の帰りを待つ嫁の図だ。すごく、しっくりくる。
「美月……!」
 勢いをつけすぎないようにしつつ、しかしきつく抱きしめると「うざい、くるしい」と眉を顰められたがそんな顔も可愛い。ついたまらなくなってキスをすれば、すでに期待し始めているのか声がクリームのようにとろりととけた。
 パーカーに短パンという部屋着姿すら、まだ見慣れていないため破壊力がすごい。このまま押し倒してしまいたいきもちをなんとか抑え込み、「……一緒に風呂、入ろう……?」と囁く。
 純粋に風呂に入るだけなら白けた目で見られるのだろうが、中でいやらしい行為をすることを察したからか、ほんのり頬を桃色にして美月は頷いてくれた。鼻血が出るかとおもった。


 美月は体を洗う際にタオルやスポンジ、さらにはボディソープ等を使わないらしく、初めて事後の処理をしたときにそれを手にしたら鬼のような形相で睨まれた。掌でやさしく洗うだけで済ませるらしいのだ。石鹸も毎回は使わないとか。だから、泡だのなんだのでお風呂プレイを楽しむことはできない。美月に殺される。だが、ふつうにさわるぶんには問題などないわけで。
 ちょっと乳首をさわっただけで、こんなところまで美しいのかと感心したくなるペニスが反応する。
 おまんこのほうがすき、なんて臆面もなく言い放っていたけれど、美月ならば開発すれば性器レベルで感じることができるようになるのではないだろうか。


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