「その従兄弟に、こんな体にされたのか」
「ん……っ」
 こんなって、どんなだ。
 一瞬そうおもったけれど、すぐにわかった。胸を衣服の上からきゅっとつままれただけであまい声が溢れてしまう、感じやすい体のことに決まっている。
「ぁ……、ち、違うんです、おれ、ほんとは……」
「なに、淫乱じゃないって言いてぇの」
「あぅっ」
 真実を述べたいのに、武宏の指先がそれをゆるしてくれない。くにくにと突起をこねられるたび、膝をすり寄せ悶えてしまう。
「あー、くそ。おまえ、まじで責任とれよな」
「ぁっ、や、責任って、なんの、」
「処女なんてまっぴらだとおもってたのに……、今はちょっと、惜しく感じてんだよ。こんなことおれにおもわせた責任は、重いぞ」
 熱に浮かされた頭で、ぼんやり武宏の言葉の意味を考えた。そして、とあることにおもいあたって顔を赤く染める。
 ふだんから、「もっと自惚れろ」と半ば呆れたように告げられてきたが、今こそそのときのような気がした。
「た、武宏さん。それって……、おれの初めてが、ほしかったってこと、ですか」
「わかってんなら聞きなおすな」
「ぁン」
 服を脱がされ、じかに胸を弄くられるとすぐにとろとろになって、脳みそがだめになってしまう。
 はやく伝えなければと、涙は焦って台詞を紡いだ。
「あの、おれ、お尻、本物挿れるのは、武宏さんが初めて、だったんです」
 いろいろとたりなかったが、彼は察しがわるくない。穴があいているところをきれいに脳内で補完したらしく、「……あの日おまえ、ところてんしてたぞ」と訝しげにこちらを睨む。
「だ、だって、武宏さん、処女は嫌いって情報があったから……。従兄弟には、確かに協力してもらいましたけど、一線は越えてないし、おれはその、ずっと、道具でしてて。バレないようにするために、必死で……」
「……なんでそう、突拍子もないことやるわけ、おまえは。つっても、その従兄弟に乳首とかアナルは指とそのおもちゃ? で開発されてたんだろ?」
「そ、それは、そう、ですけど」
 改めて確認されると肯定しがたい。でも、事実は事実。涙はぎこちなく首を振る。
「そこまでしといて、チンコ挿れてねーとか信じられねえんだけど」
「う、うそじゃないです! むしろ、挿れてって頼んだのに、断られたくらいなんで……!」
「……頼んだのか」
「あっ、いや、ええと、……はい。でもっ、恋愛感情はなかったです!」
 あれ、なんだろう、これ。なんだかまずい方向に話が傾いてきた気がする。
「おまえ、ほんとにそいつのことすきじゃなかったんだよな?」
「ん、ん、おれがすきなの、武宏さん、だけ……っ」
「そうやって可愛いこと言ったらなんでもゆるしてもらえるっておもってんじゃねーだろうな、おい」
 でこぴんをされ、あまい雰囲気が一瞬にして吹き飛んだ。
 というか、そんなことを言われても困る。自分は、正直に話しただけだ。そこに打算なんてこれっぽっちもない。
 どうすればいいのかわからず、半裸のままおろおろしていると、「あー……」とため息のようなものを吐いて、武宏が肩に額を押しつけてきた。
「武宏、さん?」
「ばか、こんなんやつあたりだっつーの。理不尽なこと言われてんだから、ちゃんと怒れよな」
「や、あの……えと、勘違いだったらすみません。武宏さん……嫉妬、してくれたんじゃないですか? そうだったらうれしいなっておもってたから、怒る気には、ちょっと、なれなかったというか」
 自意識過剰、と笑われたら恥ずかしいが、そう感じてしまったのだからしかたない。
 ちら、と横にある彼の表情を窺おうとするも、髪に隠れていてよくわからなかった。
「……涙」
 はいと返事をする前に、流れるようにくちびるを奪われる。おもわず目をとじてそれに応えていると、そう時間がたたないうちについばむようなキスは終わってしまった。
 そっと瞼を持ちあげれば、すぐそばにあるのは武宏の顔。それはひどくやさしくて、穏やかなものだった。
「おれに嫉妬された感想は?」
「…………うれしいです、とっても」
 微笑みを湛えて頭ごなしに否定されなかったことをよろこんでいると、さらに調子に乗ってしまいそうになる言葉がかけられる。
「なあ、おれとそいつどっちのほうがかっこいいか、言えよ」
 優位に立ちたがる子どものようなそれにおもわず笑みを零してしまいそうになるのをなんとかこらえて、涙は間違いようのない答えを口にした。次の瞬間、満足げに笑った武宏に押し倒され、くすぐったいきもちを抱えたまま彼の背にゆっくりと手を添えたのだった。




End.


 ▲
BOOKMARK BACK
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -