湯を沸かして急須を使用し、湯呑みにふたりぶんの茶を順に注ごうとしたところで、はたと気づく。
――客用の湯呑みがない。
 視線をさ迷わせ、見つけた白いコップに若干悩んでから急須の中身を注いだ。
「ん。熱いから気をつけろよ」
 湯呑みのほうを涙に渡して、自分はマグで茶を啜る。
「ありがとうございます……」
 礼を言って湯呑みを受けとったのち、袋の中からおにぎりを数個選んだおとこは包装を破りぱりぱりとした海苔をきれいに巻きつけ、「いただきます」と言って三角のそれに囓りついた。おにぎりひとつ食べる所作すらもどことなく優美で、こいつも例に漏れず金持ちなんだろうな、とおもった。
 武宏の家はこの学園内だと一般家庭といっても差し支えないレベルだというだけで、世間一般からすれば裕福な部類に入る。親がここに放り込んだのは乱れに乱れた自分の素行を改めさせようという意図があってのことだったし、学費は問題なく払われているようだから、そのへんのことは心配するだけむだだ。
――乱れた素行が正されたのかは疑問が残るが。
 おにぎりを食べている途中、両手で湯呑みを持ち、茶を口にした瞬間、涙の顔が驚きの色に染まった。
「美味しい……」
「高いやつらしいからな」
「委員長、お茶淹れるの得意なんですね」
 微笑を浮かべたおとこに脳がまずい、という信号を発する。
 ほんとに美味しいです、とにこにこ食事を続ける涙に対し、武宏の手はとまってしまっていた。
「……委員長?」
 どうしたんですか、と彼がふしぎそうにほんのすこし首を傾げた拍子に服がずれる。肩があらわになりかけたのをなおし、改めてこちらに向きなおろうとしたところに、武宏は襲いかかった。
「えっ、……えっ! なんで!? 今そんな雰囲気じゃなかったでしょう! それにおれ、今日はもうむり……」
「あー、一回だけ、一回だけだから」
 むり、と言いつつ抵抗をさほどしないのは力でかなうはずがないとあきらめているからなのか、実際は期待しているからなのか。
「ぁ、だめ、やだ、や……っ」
 ぶかぶかの衣服はやはり防御力が皆無で、指はあっという間に蕾へと到達した。入り口がすこしふっくらしていて、腫れているのかもしれないとおもったが、自分がそれに罪悪感を覚えて行為をやめるやさしいおとこであったなら、そもそも涙のことを食事中になど襲っていない。
「ん、んぁ、や、だめ、だめ、ぁン……っ」
 乾いているそこに一本、指を押し進めていく。きのうさんざん犯しまくったせいか、きつくはない。熱い内壁に包まれるあの感覚をおもい出すと、つい舌舐めずりをしたくなる。
「ぁ、あぁ、あ……ッ、ひ、ぅう、や、そこ、や、だめ、だって、ばぁ……っ」
 前立腺をこりこりと刺激すれば爪先を丸めて我慢をするしぐさをして、涙はぎゅっと目を瞑った。下の衣服だけひっぱり、脱がしてしまえば緩やかに勃ちあがった性器が現れる。
「あぁ、あ、あン、あぁッ、いいんちょ、いいんちょぉ……ッ」
 あまったるい声で啼く涙に、ふと名前を呼ばれたらどうなるのかと興味が湧いた。
「武宏」
「……っ?」
「おれの名前、呼んでみろ」
 うっすら目をあけ、きゅうっと後孔をきつくしめつけたのち、視線を逸らして小さく「たけひろ……」と彼が囁いた刹那、自身の中にあった欲望が肥大したのがわかった。
「んあっ! あ、ぁ、いく、ゆびで、いっちゃう、あぁあ、あー……!」
 潤滑剤に精液が使いたかったので、達する直前にぺニスをがしがし扱いてやった。すると、涙の陰茎はそれを理解しているかのように掌にじょうずに、たくさん射精した。
「ぁ、あふ、は……っ、」
 それを淫穴に塗り込めながら、武宏はナマで挿れてぇなあ、と心の中で呟いた。
 なんなら、一番奥の深いところにだって入りたい。ただ、さすがにそのふたつは合意なしに強行していいものともおもえなかったし、昨晩はしなかったわけだが。
「……なあ」
「んっ……、なんですか……?」
 やるならいっそひとおもいに、はやく。
 そんな悩ましげな表情を向けられたところで、告げる。
「おまえ、おれとつきあう気ねえ?」
「え……?」
「あー、でもすきなやつ? いるんだったか」
「な、なんでですか?」
「いやなんつーか、体の相性がよすぎて手放しがたい。あと、純粋に顔がめちゃくちゃ好みってのもある」
 体と顔……
 そう、唖然としていた涙だったが、きゅっとくちびるを噛んでから、訊ねてきた。
「……つきあうってことは、お互いにほかの相手をつくらないって認識で合ってますか」
「まあ、そうだな。ほかになんかしてほしいことあるならなるべくかなえてやりたいとは考えてるけど」
「……浮気しないで、あとは、名前呼んでくれるだけで……」
「涙。……これでいいのか?」
 ぶわ、と真っ白な肌を真っ赤に染めあげたその様子で、情けなくも武宏は彼のきもちを察した。
「……おまえのすきなやつって、おれのことだったのか」
「……そうです。そうですよ。でも、ぜんぜん、こんな展開は想定してなかった……!」
 わっと顔を覆うおとこがやたらと可愛く見え、このままソファーでてきとうに交わるのが惜しくなり、軽い体を抱きあげ寝室につれていった。
「あっ」
「はは、やばい。すげー興奮した」
「やっ、や、ぁぅ……っ」
 ぐり、と股間を押しつけると硬くなったものがあたるのか、涙が恥ずかしそうに身を捩る。
 ちゅ、ちゅ、とやさしく顔中にキスをおとし、最低なお願いをした。
「なあ、ナマでしてもいいか」
「ん、ん、」
「すっげえよくしてやるから」
 今にも泣き出しそうなほど瞳を潤ませているのに、いやだと拒否したいわけではないらしく。
「……っ、なかに」
「ん?」
「なかに、いっぱいだして、くれますか……」
 そんなふうにおねだりをされ、やられた、と感じた。
「……はは、当然だろ」
 ズボンの中でペニスが成長したせいで、痛い。わざとらしく音をたててベルトを外し、前を寛げれば肉棒がびん、と飛び出した。
「見ろよ、おまえのせいでもうがちがち」
「ぁっ……」
 うっとりしながらこくりと唾を飲み込む姿は生娘とはほど遠かったが、こちらのほうが断然自分好みだ。
 寝室にはローションがあるので、せっかくだしそちらを使うことにする。どばどばと大量にそれを涙の下半身に垂らすと、冷たかったのかびく、と細い腰が跳ねた。
 先ほどイかせてやったしへいきだろうと指を三本一気に容赦なく入れるも、そこは昨夜の情事により柔らかくなっていて、呆気なく綻んだ。
 ちゅうちゅうと時折指をいやらしくしゃぶってくるそこに自身を挿入したら凄まじい快感を得られることは、すでにいやというほど知っている。しかし、もうおざなりな愛撫をするつもりはなかった。


 
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