「ぁ、なんで、むり、きもちい……! や、やだ、ぁあ、いいんちょ、おれ、だめに、なっちゃう、あぁあッ、いくの、とまんないぃ……!」
 中はもうずっとひくついていて、何度も極まっているのだろうということがわかった。
「あー……、すげえ、うねる」
「ぁ、ぁ、も、やめ、やめて、おかしく、なるっ、は、ひ、あぁ、あぁッ」
「意識飛ぶまでつきあってくれんだろ?」
「や、むり、むり、こんなの、きいてな、や、そこだめ……っ! あぁあ、あぁあン、あー……!」
 深くまで突きさしていた肉棒を浅いところまで抜いて、前立腺をいじめてやる。先端と括れで押し潰すように、ひっ掻くように、緩急をつけて刺激してやれば肉壁はさらに熱を孕み、ぐねぐねと蠢いて武宏にも快感がもたらされた。
「あっ、ひン、あぁ……、も、ゆるして……、あー……、いく、いくぅ……っ、ひ、は、あぅ……ッ」
 上半身を支える力がもうないのか、胸をぺったりとシーツにくっつけ、腰だけを高くあげた状態で断続的に達しながら涙はぐずついている。
 気分が高揚する。ほんとうにどうしようもないのだが、このまま壊れるまで彼を揺さぶり続けてしまいたくなった。
「……夜はなげぇぞ、白布」
 今の自分の瞳は、獰猛なけもののようにひかっているのだろうとおもいつつ、そう宣言して腰を動かす。
「あぁあン! あ、ぁ、やだ、やぁ……っ、」
 底なしの快楽沼から逃げたいと手を伸ばすも、憐れな獲物は足を捕られているためそれがかなわない。
 助けて、死んじゃう。
 そう、うわごとのように繰り返している涙は知らない。これが終わったあと、第三ラウンド目が始まるということを――


 ****


 朝、体ががたがたになった涙を追い出すのはさすがに憚られ――なんてったって元凶は武宏だ――、昼に様子見にくる、と言い残して部屋を出た。風紀の中では委員長と副委員長にも一応授業免除の特権があるが、生徒会ほど忙しくはないのでその特権が使われることは滅多にない。
 廊下を歩く武宏の頭は、ここ最近のいらつきが払拭されやたらクリアになっていた。
 完全に、昨夜の行為のおかげだった。睡眠時間はさほど多くなかったが、体が軽い。やはり、性欲はためこんではいけないものだと実感する。
 朝食をとるため食堂に向かい、てきとうにあいている席に座りタッチパネルで注文をして待機していると、向かい側の椅子が許可なくひかれた。
「おっはよー、委員長。なんか、すっきりした顔してるねー。きのう一発ヤったの?」
「桂田」
 細目ににやにやした笑みを絶えず浮かべている気味のわるいおとこ。それが、眼前にいる桂田大紀(かつらだたいき)という風紀の副委員長だった。武宏ですら存在を持て余している、食えない人物だ。
「……欲求不満、顔に出てたか?」
「欲求不満てか、ぴりぴりしてたじゃあーん。風紀のみんな、怯えてたよ」
「そりゃわるかったな」
 まったくわるいなんておもってもないのに口先だけの謝罪をし、きのうの涙とのセックスをおもい返した。
 一発どころか三発もしたし、かなり好き勝手やった自覚がある。澄ました顔がぐちゃぐちゃのどろどろになって「ゆるして」「もうやめて」と懇願してくるのがたまらなくて、そうとう無茶をさせた。
 同年代の男子と比較しても経験は豊富なほうだろうし、セックスはきらいじゃない。ただ、自慰の延長戦上にあるものという意識が拭えなかったのも確かだ。おんなたちには自分本位すぎるとさんざん文句を言われてきたわけだが、きのうは最後、すこしだけ、涙の反応を楽しむために行為を長びかせたところがあったようにおもう。
 なにが武宏をそうさせたのか。考えてもわからない。爪の先までうつくしいあのおとこが乱れる姿を眺めるのが楽しかったのかもしれない。今はまだ、そんな理由しか浮かばなかった。
「で、今回はどの子を呼んだの?」
「……だれも呼んでねえ」
「えっ、一般生徒?」
 大紀に聞かれ、今さらまずったかも、と眉を寄せた。
 なにを隠そう、武宏には親衛隊があるのだ。しかも、お世辞にも小さいとは言えない規模の。
 いやでもしかたないだろう。好みのやつに誘われて、しかもしばらくそういうことにご無沙汰ときたら。断れるやつのほうが稀なはずだ。すくなくとも、この学園では。
「抜け駆けをしない、ゆるさない」という信念のもとに結成されている組織なので、夜のことについてはかなり綿密にローテーションが練られているらしい。隊員の中でちゃんと順番が回り、不平等にならないようにと。それを武宏が脅かさなかったからこそ親衛隊は穏便であったわけで、風紀をとりしまるトップであるはずの委員長自らがことを大きくするなど言語道断だ。
「あー……、親衛隊には話しとく」
 すぐに、隊長か副隊長あたりに話をつけなければならない。誘われたのは確かだが、それを受けたのは自分だし、なんならちょっと申し訳なくなる程度にはひどい扱いをした覚えもある。フォローくらいは入れておかないと、涙があまりに不憫だ。
「まあいいけどさあ、めずらしくない? 考えなしに一般生徒に手ぇ出すとか。委員長、泣きおとしで絆されるタイプじゃないっしょ」
「単純に好みだったんで、つい」
「はは、さいてー」
 くそみたいな事情を白状すれば罵られたが、本気で咎められているわけではないというのはその声音から判断できる。そもそも、大紀もひとのことを言えるほど素行がいいわけではない。
 ふたりで会話を交わしているあいだに運ばれてきた定食をさっと平らげ、授業に向かう。
 席につき、教師を待っているあいだ、気づいた。
 なぜ、涙をひとりでおいてきたのだろう。単位がやばいわけでもないし、自分も一緒に休んでしまえばよかったじゃないか、と。
 まあ、一緒にいたらまた襲っていた可能性もあるし、これでよかったのだ。たぶん。
 昼休みのチャイムが鳴るまで、武宏は真面目に教師の話を聞くこともなく、ぼんやりしながら無為な時間を過ごしたのだった。


 ****


 パンやおにぎりを買い込み、自室に戻る。
 寝室にいくにはリビングを通らなければならないのだが、涙はそこにいた。
「起きててへいきなのか」
「あ、委員長。すみません」
 ソファーにだらしなく寝転がってテレビを見ていた彼は、慌てて姿勢を正した。
「飯買ってきたけど、なんか飲むか」
「あー……、お茶とかあるならほしいです」
「ちょっと待ってろ、淹れてくる」
 好きなの食えよ、と袋を渡してキッチンに入る。実家からお裾分けだと送られてきたもらいもののお茶缶が棚にあるので、それを用意する。わざわざ急須を買って飲むようになったわけは、その茶が美味いからだ。どこぞの有名な店の、高級なお茶っぱらしい。ちゃんと淹れると味がまったく違うので、いつしかこだわるようになったというだけのことだった。


 
BOOKMARK BACK
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -