私が船長に拾われたのはもう2ヶ月も前になる。別の海賊に拐われて来たとき病気の発作を起こしていた私は、人質の価値もないと海に棄てられてしまうところだった。そこに通りかかった船長が私を引き取ったのだ。 「せんちょう」 「なんだお前、寝てろ」 「あたしもうへいきだよ」 「平気じゃない。ドクターストップだ」 「どくたー?」 お前にはわかんねーかって船長は私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。船長の腰辺りまでしか背が無い私はぐぐ、と背伸びする。 「ま…騒いだりしなきゃ良い」 「うん!」 「飛び跳ねるな」 「ごめんなさい」 船長に怒られたから私は反省して黙り込んだ。もっと遊んだりいろいろしたいのにいつも船長に止められてしまう。最近はもう苦しくなったりしないのに。 「多分ね、キャプテン心配なんだよ」 「そうなの?」 「うん。だって引き取った時お人形みたいだったもん」 お人形?と首を傾げたらまた船長が「お前は分かんなくて良い」と言った。いつだって船長は私を子供扱いする。その度にちょっと苦しくなった。船長の馬鹿、私もう子供じゃないよ。 クマが濃くて目も怖くておっきな刀を持ってるけど、私を助けてくれた船長。私が知らないこの船で目覚めた時に側に居てくれた船長。そんな船長に恋心を抱くのは簡単で、恋愛経験なんて無くても好きになっちゃうのは当然だった。だけど釣り合わないとか不毛な恋とかを理解するのはちょっと難しい。 「せんちょうのばかあ」 「誰がなんだって?」 「ごめんなひゃい」 ほっぺをつねられて痛い。やめてよ船長、と口を開きかけたそのとき。 「敵だ!」 鋭い声が飛んで皆が応戦体制に移る。船長は私に隠れてるよう促した。言われた通り物陰に隠れていたけれど、私一人がこんなとこに居て良いんだろうかと思った。みんなが戦ってるのに、船長も戦ってるのに。 「せん、」 あ、と思った頃には私は変になっていた。発作がでて苦しくなって、手がぐにゃりと変形した。そして 「ぐ…っ」 敵の一人が水にぐわっとに包まれて捕まった。私は分からぬまま手を動かす。すると今度はその近くにいた敵までも水に捕らわれた。 「…なに?これ、わたしの、て…」 船長と目があった。船長、私病気?手が水になっちゃった。怖いよ、船長。 助けを求めて船長に手を伸ばした。 「お前、能力者だったのか…!?」 言い終わる前に水が船長の身体を捕らえた。船長の口から出る水泡が綺麗で私は思わず見とれた。船長は泳げないから溺れ死んじゃうかもしれない。早く助けなきゃ。でも……どうやって? 「せ、」 「せんちょうたすけ、なきゃ!た…」 そうだ、さっき船長が言いかけた…「能力者」?能力者って…つまりこれ、私がやってるの、か。私が船長を苦しめてるのか。 バシャッ、と音がして、敵と船長が水から解放された。咳き込みながら膝をつく船長はそれでもよたよたとこちらへ歩いてくる。 「あ…あ……せん、ちょう…ごめんなさい、わたし…」 ぐっと船長に抱き寄せられて何がなんだか分かんなかったけど、船長の身体は死人みたいに冷たくて呼吸も荒かった。 「……もう大丈夫だ」 「せんちょう…?」 「もう、怖くないからな」 どんなに背伸びをしても決して届かない船長の首に手を伸ばすと彼は私を抱き上げてくれた。ふらふらなのに、辛いはずなのに。何故だか私は涙が止まらなくてただただ泣いた。怖くて仕方無かったのに、船長の優しさに触れて、温かくて、涙が出た。 「大丈夫、俺は大丈夫だから」 「ごめ、んなさ…い…っ」 「泣くな」 「…せんちょ、う」 「なんだ」 「すき、すきです」 溢れた言葉は涙と一緒に流れていって青い青い海にそそいで行くのだった。 或いは深遠よりも真っ青で --------------------- 「素足に浸る」さまに提出しました。 幼女とローの組み合わせが書きたくて。ただ趣味を詰め込んだだけになってしまいましたが、素敵な企画に参加させてくださってありがとうございました。 3.4.碧 |