古い本屋の店先で私は大きく伸びをする。気持ちの良い休日は私の大好きな時間。祖父から受け継いだ小さな小さな本屋の本を店先に並べて虫干しするのだ。

「本屋さん」
「あ…サイくん。」

サイくんはよく図書館に行った帰りにここに寄ってくれる。若い人では数少ない常連さんだ。図書館で読んで、欲しい本なんかをよく買いに来くる。

サイくん曰く仲良くなるにはあだ名で呼ぶのが良いとかで私のことは本屋さんと呼ぶのだ。

「何してるんです?」
「虫干しだよ」
「虫干し…?」
「定期的に風通しの良いとこで本を干すの」

サイくんは真っ黒な目をきらきらさせてそうなんですか、と言った。おかしいな、どっちかというとかっこいいタイプなのになんだか可愛い。
それからしばらく何か迷ってるみたいにその場をうろうろして突然私の前で止まった。


「あの、しばらく見てても良いですか!」
「…え?あ、うんもちろん。」

私がそう言うとサイくんはほっとしたように笑ってくれた。

日陰に広げた本にはたきをかけたり古い本には修理を加えたりする。そうやって代々この本屋は受け継がれてきた。直ぐに買われてく本もあるしずっと売れない本もある。それらに平等に愛を注ぎつつ私もここを守っていこうと決めていた。



「…お客さん来ないけど…楽しい?」
「はい」

さわさわと秋の木が音をたてている以外はすごく静かだ。サイくんはただ私の様子を見てるだけ。こんなの見ててもあんまり楽しく無いと思うんだけどな…
でもサイくんは何だか楽しそうだった。

「あっ、そうだ!お茶出すね!ごめんなさい気が付かなくて」
「あっいえ…お構い無く」

サイくんにちょっとだけ店番を頼んで私は店の奥に向かった。良いお茶なんかあったかな。一人暮らしでお客さんなんて滅多に来ないから…。
運良く私は数日前に常連のおじいちゃんから貰った高いお茶のことを思い出した。お菓子は…明日食べようと思ってた黒糖まんじゅうがあったんだ。


「サイくん、お待たせ…」

お茶とお菓子を載せたお盆を持って店先に行くと、サイくんはなにやら熱心に絵を書いていた。虫干しされた本たちが繊細に描かれている。

「うわ…上手だね…!」
「えっ?あ…すみません…集中していて」
「いいのいいの!区切りついたらお茶にしよう」


サイくんがスケッチを終えてから私たちは二人でお茶を飲んだ。頂き物のお茶はとっても美味しくて、黒糖まんじゅうもお茶うけにぴったりだった。

「美味しいですね」
「ふふ、もう5回目だよ、サイくん。よっぽど美味しいんだね」
「…そ、そうですか」
「うん」

ちょっとだけ恥ずかしそうに頬を掻くサイくんが可愛くて私はちょっと笑った。ああ…楽しいな。本に囲まれて一人で暮らすのも楽しいけど、こうやって年の近い人と話すのもすごく楽しい。

「あの、」
「ねえ…」

「あ…どうぞ」
「良いよ、サイくんどうぞ」
「あ、え…と……」
「うん」
「また…来ても良いですか?」

また来てね、と言おうとしていた私はサイくんの顔をまじまじと見つめた。

「な…なんですか」
「なんで私の言いたいこと分かったの?」
「え…?」
「また来てほしいって言おうと思ったんだよ」


しばらく互いに顔を見合わせていた私たちは、同時に笑いだした。つい最近知り合ったばかりなのに昔から知ってるみたいな感覚で心地が良い。もしかしたら前世で私であった誰かがサイくんであった誰かと巡りあっていたのかもしれない。そんな不思議なことをふと思った。


こうしてのどかな休日の午後はゆっくりと過ぎて行くのだった。




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むしゃむしゃ書房」さまに提出しました。
普段あまりほのぼのとした夢を書かないのですが、企画の雰囲気がとてもほんわかしていて優しかったのでちょっと挑戦してみました。
イマイチ人気が出ないらしいサイですが、そんなサイが大好きなので愛をたくさん込めました。サイ…良いですよ!←

参加させていただいて本当にありがとうございました!


11.16.碧


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