夏が終わる。
日中暑くて暑くて仕方無かったのに夜になるとすっかり涼しくなって虫の声が聞こえてくるようになった。賑やかだった夏が終わって寂しい秋がやって来る。

「山南さん」
「おや、こんばんは」

彼は離れの縁側に腰掛けて月を眺めていたみたいだ。その横顔が美しくて、同時に儚げで私は思わず息をのむ。
そのまますっと隣に座ると「寒いでしょう」と彼は着ていた上着を掛けてくれた。山南さんの温もりが、あたたかい。


「綺麗ですねえ」
「はい」

先程から私たちはただそれだけを繰り返していた。黙って月を眺め、しばらくしてどちらかがぽつりとそう呟く。ただそれだけが心地いいのは多分隣に居るのが山南さんだからだろう。秋風がひゅう、と吹き抜けて私は少しだけ身震いした。

「入りましょうか」
「…はい」



こうして彼の元に通い出したのはいつからだろう。最初はなかなか気を置いて貰えなかった。彼はまるで手負いの獅子のように私を警戒し、己を隠していた。それでも私は通い続けた。彼が惨めだったからではない。彼に同情したわけでもない。私はただ彼と居たかった。他の誰でもない、山南敬助と。


「羅刹隊は良いのですか」
「ええ、今日は休息日ですから」
「…そうですか」


彼は自分を人間では無いという。確かにそうなのかもしれない。けれど化物は人に上着を掛けてくれたり、月を愛おしく眺めたりなんてしない。山南さんは優しい優しい「人間」だ。

山南さんは温かいお茶と落雁を出してくれた。そして本当はお抹茶を立てると良いのですがね、と笑う。


「さんなんさんっ」
「こらこら、きちんと飲み込んでから喋りなさい」
「、…ごめんなさい」
「貴女は随分とせっかちなのですねえ」


愛しそうにこちらを見られた。ああ、なんて綺麗な瞳、吸い込まれてしまいそうですよ。優しく微笑むその姿に心臓が高鳴った。みんな険しい顔の山南さんばかり見ていてこんな優しい表情から目をそらす。そのくせ鬼だの死人だの。感傷に浸っていると山南さんがぐっと手を掴んできた。そしてそのままぺろり。

「……うえっ!?」
「甘いですね」
「ちょっ、え、何し…」
「あなたが意識を飛ばすからいけないのですよ」

にこり。
…反則だ。普段は私みたいな小娘、興味ありませんみたいな顔してるくせに。落雁の粉を舐めとるように這う彼の舌の感触が消えない。

「…う、あ…あ、それでは私そろそろ失礼します」
「随分と早急ですね」
「いや、だっ…あの」





「此処に居なさい」


命令するように、だけど優しく囁かれた。耳がくすぐったくて頭がぐちゃぐちゃだ。山南さんの甘えたがこんなになるのは初めてで、それは秋の夜の寂しさのせいか、はたまたそうでは無いのか確かではなかった。どちらにしろ私はこの人にはまって逃げられなくなっていた。


「…余裕ですね…私をからかって楽しいですか山南さん」
「からかってなんかいませんよ」
「そうですか」

「私も男ですからね」


月に照らされた横顔が泣きたいくらい綺麗だった。


この夜に埋もれなさい



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brolo【庭園】」さまに提出しました。
山南さんのあの声で囁かれたら卒倒する自信があります…!←
素敵な企画に参加させて頂いてありがとうございました!

thx:sting

9.20.碧


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