いつから俺はこんな風になってしまったんだろう。

幼稚園の頃から俺と哉太とあいつは幼馴染みでいっつも三人一緒に居た。まだ小さかった俺は子供ながらに二人を守ってやらなきゃと強く思っていた。身体の弱い哉太、女の子のあいつ。あの二人を守るのが俺のただひとつにして最大の存在理由だった。だけどある日あの人は現れた。当然のようにあいつと哉太の間に居て笑ってた。よう、お前錫也っていうのかよろしくな!なんて兄貴面で笑って俺の背中を叩いた。すごく怖かった。この人が居たら二人が取られてしまう。二人を守るのは俺じゃなくても良くなって、俺の存在理由は無くなってしまう。だから怖くてあの人が憎かった。なあ、あの人の前で笑うなよ。そんな、俺が見たこと無いような顔、するな。

だけどすぐに事件は起こった。あの人はあいつに怪我をさせた。あの人を排除するには十分な理由だった。


「錫也?」
「……ん?」
「寝るならベッドで寝た方が良いよ」
「いや、良いんだ」
「ふうん」

どうやらソファでうたた寝していたらしい。うたた寝どころか随分がっつり寝てたみたいだけど。隣にこいつが居て俺はすごく幸せな筈だ。幸せなのに何でこんな気持ちになるんだろう。一体何が足りないんだろう。

「やっぱり錫也疲れてるみたい」
「そんなことないよ」
「そう?」
「それよりキスしていい?」
「……良いよ」

顔を近づけるとふわっとシャンプーの香りがした。俺と同じシャンプーなのにこいつのは何故か甘い。俺はもう一度唇をくっつけた。

「なあ」
「なに?」
「俺、何でこんな風になっちゃったんだろ」
「どんな風に?」
「お前に触れないくらい怖い人間に」
「…触ってるよ?」
「今はな」
「錫也?」

思わず動いてしまいそうだった右手を左手で押さえた。俺は俺以外の男にこいつが笑顔を向けた時思ったんだ。お前は誰も見なくて良い。俺だけ見てれば良い。俺以外を見る悪いお前はどこかに閉じ込めておこうって。自分の独占欲が怖い。俺の知らないとこで育つ俺自身が怖い。

「…―て、」
「え?」
「コンビニにでも行って、立ち読みでもしてきて」
「錫、也?」
「ごめん、俺から逃げて…!」

今すぐにでもこいつを捕まえてぐちゃぐちゃにしてしまいたい。でもダメだ。何があったってこいつを傷付ける事はいけない。そんなことをしたら俺は俺を殺してやる。俺はぎゅう、と自分の手に爪を立てた。

「錫也…」
「早く!」
「……っ」
「早く行け!」

ばたばたと慌ただしく準備をする音が聞こえる。リビングの扉は半開きでその音が良く聞こえた。準備がやけに長い。あいつはもう俺に愛想をつかせてしまったんだろうか。本当に出ていってしまうんだろうか。俺を嫌いになったんだろうか。
そう思ったら身体が動いていた。

「待…っ」

サンダルを突っ掛けたあいつが振り返った。俺は裸足で玄関に出て、その腕を掴んだ。なあ、俺はいつからこんな風に…お前が居なくちゃ生きていけない人間になっちゃったんだろうな。俺の腕は震えていた。頭ではこいつを放さなきゃと分かっているのに、身体が行かないでと嘆いている。
あいつはくるりと振り返って俺の首に抱き着いた。

「…え?」
「泣かないで、錫也」
「お、れ」
「大丈夫、怖くないよ」
「…なんで、」
「私、錫也が好きだから」

こいつは真っ白で俺は真っ黒で混ぜたらちょうど灰色になる。灰色だったら大丈夫かな、ちゃんと生きていけるかな。俺はお前が好きでお前も俺が好きなら、これからも二人で生きて、逝けるかな。

そう思ったら余計に涙が出た。



盗むは純白、
纏うは漆黒


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素足に浸る」さまに提出しました。
ドロドロのヤンデレ錫也が書きたくて…書いてしまいました。お題を見たときぴったり来たので、このお題で書かせて頂けて嬉しかったです。素敵な企画に参加させて頂きありがとうございました!

7.24.碧



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