「知ってるか?」
広く冷たい空間
かつて光と影が戦った場所
そんな場所で静かに語る女が一人
その瞳に誰を映し想いを馳せるのか…
獣
最初の頃はそう呼ぶのが相応しいかもしれない
生まれた時から本能剥き出しにし、ただ殺戮のためだけに暴れた
自我など持っていない
もちろん、言葉も、感情も何もかも…
それがいつからだ?
次に会った時、お前は笑い、怒り、悩み、苦しみ…
あの時のような獣ではなく自我を持っていた
めんどくさがりの気分屋で、何を考えているか分からない
それでいて、己の使命だとか存在意義だとかに悩み苦しむような…我ら魔物からすれば人間と変わらない奴だったな
何故悩み苦しむ必要があるのだろうか?
使命など生まれた時から皆同じ“勇者を始末する”事であり、それが我らの存在意義
―全ては我らを生み出して下さった魔王様のため―
それはお前も同じだ
悩む必要なんて無かったじゃないか
苦しみなんてどこにも無い…寧ろ喜びを感じている
そういえば、いつの日だったかお前は言ったよな…
「“自由”って何だろな」
その時私は、愚問だと笑い飛ばし非難した
我らは十分なほど快適な世界を貰ったではないか…今まで以上に自由に暴れる事が出来る
お前だって分かっていただろう?
ただの影だったお前が、自我を持ち、今こうして其処にいた
私だって同じだ…
縛られた牢の中、魔王様によって自由を貰った
だから、そんな魔王様に答える為に私は戦う
魔王様のために勇者を倒す
魔王のために…ために………?
「結局、自由なんてどこにも無いんだよ…自分の意志とは思っていても、最終的には上手くアイツの掌の上で踊らされて利用されるだけなんだ」
その言葉に違う…そんな事ない、私は自分の意志で選んだ道だと分からなくなったよ
それからしばらくしてからか?
勇者が近い…と神殿に籠もるようになり、ほとんど会うことが無くなったよな…
その間にも私は、お前の問に必死で頭を悩ませたよ
何故悩む必要があるのかすらも分からなくなっていたある日
「影がやられた…使えぬ奴だ」と魔王様が話しているのを聴いて、自分でも笑っちゃうぐらい必死に神殿へ向かって走っていたっけな…
お前もびっくりしてたけど、私だって何が何だか分からなかったよ
こんなにも涙が溢れて止まらないなんて…
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