昼休みを屋上で過ごし、授業開始教室に帰ってきたらそこには誰も居なかった。
失敗した・・・、と俺は頭をかく。
五時間目が科学で、移動教室だったのをすっかり忘れていた。


「・・・サボるか」


この教室から理科室はかなり遠いため、確実に間に合わない。
遅刻して怒られるのも嫌だ。
それなら、サボってしまったほうがずっと楽である。

そうと決まれば、見回りの教師に見つかる前に屋上へ向かわなければ。
踵を返して屋上へ戻ろうと一歩を踏み出した瞬間、誰かが勢いよくぶつかってきた。
少しよろけてしまったが、俺よりもぶつかってきた相手のほうが大変なことになってしまった。
その相手(女子)は、勢いに負けて尻餅をつき、彼女が持っていた荷物が全て廊下に散らばってしまった。
大惨事、だ。


「ご、ごめんなさっ・・・」


彼女は慌てて散らばった教科書等をかき集める。
ここで手伝わない訳にもいかないので、自分の近くに落ちていたペンケースとファイルを拾い、彼女に差し出した。


「あっ・・・」

「・・・?」


ここで初めて彼女は顔を上げた。少し乱れた染めたてであろうダークブラウンの髪の毛をそのままに、驚いたような、戸惑ったような表情でこちらを見ていた。
その表情があまりにも綺麗で、胸が少し疼く。
そのまま彼女に見とれて動けなくいたら、ついに予鈴が鳴った。
彼女はその予鈴に反応して俺からファイルとペンケースを慌てて受け取る。


「ありがとうございましたっ・・・!」


そしてそのまま、走り去ってしまった。
彼女の後ろ姿を最後まで見送って、やっと自分が一目惚れをしてしまったことに気が付いた。









戻ってきた屋上にはやはり誰も居ない。
一時間昼寝をしていようと思っていたのだが、目を閉じれば先程の彼女を思い浮かべてしまいなかなか寝付けなかった。

(重症じゃな・・・)

今まで見た誰よりも綺麗だった。
それに、自分から惚れてしまったのは初めてだ。
・・・しかし、恋愛事は面倒臭いとずっと避けて通ってきたために、何をしていいのかがわからなかった。

(望みは、ないのかのぅ・・・)

名前さえ知らないのだ。
半ば諦めつつ、寝返りをうてば、コンクリートの冷たさが心を冷やすかのようにジワジワとしみてきた。