「仁王くん、目、真っ赤」

「名字さんも真っ赤」

「・・・っふふ、お揃いだね」

「お友達やけんのぅ」


二人で大泣きして5時間目をサボってしまい、先生にバレないようにと旧図書室でやり過ごすことにした。
古い席には座らず、寄り添うように並んで壁際にもたれ掛かる。
名字さんも俺も目尻が真っ赤で、とても人前に出れる姿ではない。
こっそり水道で濡らしてきたハンカチを二人で目元に宛てながら、先ほどのことなんかなかったかのように笑いあった。
泣き腫らして格好悪い目も、名字さんとお揃いなら悪くはないと思ってしまう俺は重症だ。


「仁王くんがお友達でよかった。・・・私、ずっとお友達がほしかったの」


「変だと思うでしょ?」と名字さんが自嘲するように口を開いた。
俺は頷きも首を横にも振らず、ただ黙って名字さんの次の言葉を待った。


「立海に編入してきてから、すぐに噂になっちゃったから、友達出来なかったの。・・・最初は、ただ持て囃されてるだけにしか感じなかったけど、「外部編入生だから頭が良さそう」とか「真面目」とか「運動神経が良さそう」とか・・・噂が増えてって、それがプレッシャーになって・・・ね、期待に応えなきゃって焦っちゃって、・・・でも期待に応えたって友達ができるわけでもないから、もうわからなくなっちゃって」


バカだよね、と笑う名字さんがあまりにも儚くて、思わず名字さんの手を握った。
俺が居る、ということを伝えたかったのだが、上手い言葉が見つからなくてただ手を握ることした出来なかった。
だけど名字さんはふんわりと笑ってくれて、「ありがとう」と俺の肩にもたれ掛かった。


「でも、今はそんなことないんだよ。仁王くんが一緒に居てくれたから」

「名字、さん」

「仁王くんは大切なお友達で、私を救い出してくれた大切な人なんだよ」

「大袈裟じゃよ。大したことしとらん」

「・・・そうかもしれないね。でも、大袈裟でも、本当に私はそう思ってるの」


自分がいままで一緒に居たことが間違いではなかった。
その嬉しさを感じると同時に、名字さんにしつこいと思われていたらどうしようか、と散々悩んでいた自分が余りにも臆病者に見えてきて、ちょっと情けなくなった。
でも、こうして情けなく思えるのは名字さんが俺を大切にしてくれていると思えるからだ。


「なんか話したらスッキリしちゃった。・・・ありがとう、仁王くん」

「俺こそ、・・・ありがとう」

「・・・私なにかしたっけ」

「内緒じゃ」

「えっ、知りたい」

「内緒じゃから、教えられんよ」

「ひどいなぁ」


そう言ってクスクス笑う名字さんに、心の中でこっそりと「俺と一緒におってくれて、ありがとう」と伝わらないように伝えた。