いつもより購買が混んでいたため、図書室に行くのが遅くなってしまった。
名字さんがこんなことで怒る人じゃないことは知っているが、はやく会いたい気持ちが背中を押して自然に駆け足になる。
パンと炭酸飲料を抱えてはやくはやくと廊下をかけていたら、急に少し遠くの先に見えた女子に「仁王くん!」と高い声で呼び止められた。
はやくはやく、と急かす気持ちがムズムズするが、「なんじゃ」と返事をする。
小さくてふわふわした髪の毛の、いわゆる「カワイイ」と言われるような女子だった。


「あの、・・・今時間あるかな」

もじもじと、けれどしっかり上目遣いなんかしてる彼女に少し嫌気がさした。
今の俺の状態を見たら、これから昼食を取ることがすぐにわかるだろう・・・なんて思ったが、口には出さない。
けど、名字さんと過ごす昼休みを削りたくはない。
言葉を一つずつ選ぶように頭の中で並べて、「すまん」と彼女に謝った。


「人を待たせてるんじゃ。すまんが、また今度にしてくれんか」

「えっ・・・」


彼女は縋るように俺を見る。
てっきりすぐに引いてくれるもんだと予想していた俺は少しうろたえた。
頼むから、そういう目で俺を見ないでくれ。
彼女の視線が嫌でチラリとすぐそこにある旧図書室の扉に視線を向ける。
はやくあそこに入りたい。
すぐそこにあるのにどうして、とムシャクシャしそうになったのと同時に、ガチャリと旧図書室の扉が開いた。
出てきたのは勿論名字さんで、俺を呼び止めた女子を挟んで視線がぶつかった。


「仁王、くん?」


女子がこてんと首を傾げてから、後ろを振り向く。


「名字・・・さん・・・?なんで?」


明らかに女子は慌ていた。
なにか名字さんに見られたらまずいことなのだろうか。
名字さんは名字さんで相変わらずキョトンとしたままで「遅かったから、ちょっと心配になっちゃったんだけど・・・」と可愛らしいことを言ってくれる。
多分、今俺の顔、真っ赤だ。


「名字さん・・・仁王くんと仲いいの?」

「・・・うん、ダメ?」

「・・・っ」


女子は返事をする前にどこかに走り去った。
なんだったんだ、と拍子抜けしたが、とりあえず助かったのかもしれない。
名字さんと二人でキョトンとしていたら、キュルルルと情けない音を俺のお腹が奏でた。


「・・・ご飯、食べよっか」

「・・・そうじゃな」