3年に進級してから、私には財前くん以外にも困りの種が出来た。
それは入学早々にレギュラー入りをしてしまうほどテニスが強い、しかし中身はまだまだ遊び盛りな一年生の遠山金太郎くんこと金ちゃんである。
部活が始まってはじめてのおやつタイムに、(ダイエット中だったから)私の分タコ焼きをあげたのがきっかけで懐かれてしまった。
金ちゃんが私を見かけるたびにすっ飛んできて腰に抱き着いてくるようになったので、財前くんと合わせて苦労は二倍になってしまった。
二人とも可愛い後輩だし、仲良くなれるのはうれしいけれども、見つかるたびに抱き着かれたりエルボーかけられたりするのはかなりキツイ。
金ちゃんはまだ白石部長の毒手の脅しでなんとかなるけど、財前くんはいろいろと完璧すぎて対抗できない。
なんとかならないか、て頭を悩ませながらボール運びをしていると、「名前ー!」と元気な声で呼ばれた。


「ワイ、試合勝ったで!財前やっつけたんやー!」

「あら、おめでとう金ちゃん」

「ほんなら明日のおやつはタコ焼きで決定やな!」

「そうだねー、白石部長に言っておくね」


タコ焼きタコ焼きー!と元気にはしゃぎ回る金ちゃん。
試合終わったばっかなのに体力すごいなぁと感心していると、急に後ろから腕が伸びてきて、誰かの体重がぐっとかけられた。
腕が汗で湿った感じがしているから、多分・・・


「財前くん重い・・・」

「・・・名前先輩、俺を癒してくれへん?」

「いやだから、あの」


ボールが入った重いカゴを持っているのに加えて財前くんの体重を支えなきゃいけなくなり、私の足はプルプルしていた。
それでも頑張って支えていたのだが、金ちゃんがキラキラした目でこっちを見ていたのに気付き、私は冷や汗をかいた。


「ワイも混ぜてー!」


金ちゃんが私に飛び付いてきて私はコート端に倒れ込んだ。
宙を舞うボールを見て、私は「終わった・・・」と呟いた。





「金ちゃん、仕事中の名前の邪魔したらアカンて言うたやろ?」

「せやけど白石ー」

「言い訳したら毒手やで」

「嫌やー!」

「なら静かにしよな」


私、財前くん、金ちゃんの三人は部室で正座をさせられ、白石部長に怖いくらいの笑顔で説教を受けていた。
金ちゃんには毒手を利用した説教が一番効果的なので、白石部長はそれを利用して手短に、でもしっかりと金ちゃんを怒った。
そしてさっさと練習に戻してしまった。
さすがバイブルである。
私はなにされるのかわからずに怯えていたら、白石部長は苦笑を浮かべて私と財前くんの頭にポンと手を置いた。


「二人とも、じゃれつき過ぎや」

「すみませんでした・・・」

「なんや部長、嫉妬ッスか」

「財前・・・よぉ分かっとるからちょっと大人しゅうしててな」


白石部長ドンマイである。


「名前は後輩を可愛がんのもええけど、ちゃんと指導もせなアカン」

「ごもっとも・・・デス」

「ま、この二人じゃ大変やろけどな。こないなことになる前に誰かに頼り」


俺でもええから、と頭をポンポンとあやすように撫でられ、白石部長はにこっと笑った。
優しいなぁと思いつつ、イケメンの笑顔はある意味反則だなぁとアホなことを考えた。


「・・・で、財前は部活中はもう少し名前離れしてほしいんやけど」

「無理や」

「・・・財前」


つーん、と不機嫌な表情で返事をしない財前くん。
さすがの白石部活も手を焼いているようだ。
財前くんは練習こそちゃんとこなしているが、休憩時間は私イジメを生き甲斐にしているかのようにちょっかいをかけてくる。


「財前くん、ホラ、部活以外でもいいじゃない。私をいじめるのなんて・・・」

「・・・は?」


財前くんに「・・・は?」と返されてすごく泣きたくなった。
白石部長に助けてと視線を送れば、白石部長も少し驚いた表情をしていた。


「財前、名前のこといじめてへんやろ」

「え?」

「名前先輩ニブ過ぎてムカつくわ」

「えっ、え?」


説教は最終的に私が呆れられて終わった。
なんだこの展開。


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