今日も今日で財前くんが教室に遊びに来ていた。
よくわからない洋楽のCDを私に持たせて、移動教室なのか早めに帰っていったが、それでもちょっと疲れた。
へにゃっと机に潰れたら、「大変やな」と声が降ってきた。


「あれ、忍足くん」

「名字さん、随分財前に気に入られとるなあ」

「え?あれイジメじゃないの?」

「イジメて・・・」


忍足くんは笑いながら私の前の空いている席に座った。
あれは忍足くんにはイジメには見えていなかったらしいのだが、イジメを受けている本人にしかわからない疲れがある。
そういえば、忍足くんとクラスでこうやって話すのも久しぶりだ。
いつも財前くんが遮るように話し掛けてきて、私に逃がすまいとしているのでなかなか動けずにいたのだ。
そういえば、忍足くんと財前くんは中学からのダブルスペア、なんだっけ。


「財前くんと忍足くん、仲いいよね」

「まあ・・・つんけんしとるけどな」

「そーかなあ・・・」


忍足くんと話してる財前くんは生き生きしているように見える。
後輩に慕われることに憧れを持っている私は、とても忍足くんが羨ましかった。
しかし忍足くんは変なことを聞いたかのような顔をしていた。


「名字さんのが、財前と仲ええやん」

「・・・え?」


それはない。
財前くんは私の反応をおもしろがって遊んでいるだけである。
忍足くんがあまりにもおかしなことを言うので訂正させてもらうと、忍足くんも私の意見を訂正してきた。


「財前、名字さんにべったりやん。あんなに誰かに固執する財前見たことないで」

「えええ、うそ」

「ホンマやって。嫌いな奴に話かけるようなタイプやないで」


言われて見れば確かに。
財前くんは興味ないことにはとことん無関心っぽい性格だし、ああでも、気まぐれで私で遊んでるってこともあるよなぁ・・・。
わけがわからなくなって「うーん」と唸っていたら、首にギュッと腕が巻かれるのと同時に、「謙也さん死ね」と言う声が降ってきた。


「誰が死ぬか!」

「名前先輩は俺のや。手出したら殺す」

「財前くん・・・物騒だよ・・・」


一度教室に戻ったはずの財前くんがまたやってきた。
理由を聞けば、移動中に教室の前を通り掛かり、私と忍足くんが話しているのが見えたためこっちに来てみたそうだ。
流石に「死ね」等は物騒なのでやんわりと注意すれば、ムスッとされた。


「・・・謙也さんくたばれ」

「あんまり変わらへんな」

「あははは・・・まあまあ、」

「だいたい、二人で何の話してたんスか。ホンマムカつく」

「何って、なあ?」

「財前くんの話だよ?」


ねえ、と忍足くんと二人で財前くんに言えば、財前くんは「・・・ホンマ?」とちょっと嬉しそうな顔をした。
はたから見ればあまり変化がないかもしれないが、確かにちょっと嬉しそうなのは間違いない。


「名前先輩が俺の話してたんか。よっしゃ、言い触らしてこよ」

「え」


なぜ言い触らすのかはわからないが、財前くんは上機嫌で教室を出て行った。
わけがわからず、忍足くんと二人で顔を見合わせる。
とりあえず言えることは


「お互い苦労しますね、忍足くん」

「苦労仲間やな」

「仲間・・・!」


もしかしてこれはクラスでのお友達第一号に・・・と思っていたら、忍足くんにじっと見られていることに気付いた。


「・・・ん?」

「いや、名字さんが俺のこと名字で呼ぶんがムズ痒くて」

「あっごめんなさい・・・なにか気に障りましたか・・・」

「なんでネガティブやねん」


ビシッとツッコミを入れられる。
小春ちゃん曰く私はボケの性質をもっているらしく、ツッコミ属性の忍足くんとは相性がいいらしい。
クラス変えで落ち込んでいた私にかけてくれた小春ちゃんのその言葉を思い出した。
成る程なーと関心していたら、忍足くんが「謙也」と自分の名前を言った。


「・・・?忍足謙也くんでしょ?」


それくらい知ってるよ、と忍足くんに言えば、「ちゃう」と遮られる。


「名前呼び捨てでええよ」

「・・・いいの?」

「部活仲間やし、クラスメイトやし、何より友達やろ?」

「・・・!!」


私は感動で涙が出そうになった。

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