「名前先輩」
バン!と勢いよく扉を開けて部室に入ってきた財前くんは、私を見付けるなりダッシュでこっちに向かってきて腰にタックルしてきた。
私はよろけて壁に頭をぶつけ、全治三日のタンコブを作った。
私と財前くんはあまり身長差が無いので、ぎゅうっと首を腕で締め付けるのもたやすいようで、毎日3回は私にタックルと首絞めという嫌がらせをして楽しんでいるのだ。
頭をぐりぐりと首に押し付けて来るのもイジメの一つだ。
「名前先輩、落ち着くわ」
「おー、それはよかったね」
「もう名前先輩から離れたないわ」
「あはは、冗談も大概にしないとファンが泣くよ」
そんなん別に、と呟きぐりぐり頭を押し付けてくる。
私を虐めて落ち着くらしい財前くんは、何かに疲れていたのだろうか。
どれだけ先輩泣かせ(主に私と謙也)な財前くんでも、かわいいかわいい後輩であることには違いない。
私でよければストレスのはけ口になってやるよ、という気持ちを込めて、財前くんの頭を撫でてあげた。
あ、この子ワックスめっちゃ使ってる。
「・・・もっと撫でて」
ちらっと私を見て、もっと、とおねだりされてしまった。
なんだこれ、かわいい。
私は適当に「んー」と返事をしながら、ちょっとつらい体制なのは気にせず財前くんの頭を撫でた。
そういえば、最初の頃より財前くんにくっつかれるのに慣れた気がする。
初めてコレをされた時にはびっくりし過ぎて全員分のドリンクを零したんだっけ。
かっこいい人にそんなに耐性がなかったから、ある意味財前くんのおかげでちょっと耐性が出来た。
誇れることではないのはわかっているが。
財前くんの頭を撫でていたら、困り顔の今度は謙也が部室に入ってきた。
「財前・・・またここにおったんか・・・」
「悪いんスか」
どうやら謙也は財前くんを探していたようで、財前くんには鬱陶しいとでも言うかのようにキッと睨まれていた。
先輩なのにかわいそうだ。
「ドンマイ謙也」
「名前もドンマイ」
「名前先輩、謙也さんとやなくて、俺と話しましょ」
「財前・・・お前そろそろ名前離れせなアカンで?」
「は?」
「いや、「は?」やなくて・・・」
「謙也・・・、私が財前くん連れてくから、練習してきなよ。ね?」
財前くんに冷たい態度を取られて少し凹んでいる謙也を練習に送り出す。
謙也も大変な後輩を持ったな・・・、あ、私もか。
財前くんは相変わらずつーんとした態度で、私にゆるいエルボーを食らわせている。
また頭を撫でてあげると、べったりくっついてきて体重をかけられた。
「財前くん、部活行こうね」
「名前先輩もやろ」
「私、部室の掃除しなきゃ」
「ダメ。来い」
私に自由はない。