6.5
私の部屋の片付けも一段落し、ノボリさんの出勤の時間も迫ってきていたので一旦中断して昼食をとった。
いままでボールの中に居たシャンデラがごはんの匂いにつられてボールからでてきたので、作り置きしていたポフィンを食べさせてあげた。
ノボリさんはポフィンを見たことがなかったようで、 材料や調理法など事細かく聞かれたが、「時間大丈夫なんですか」と言えば慌てて準備に向かった。
「あ、そうだノボリさん。アイロン、かけましょうか」
私がそう声をかけたときには、ノボリさんはタンスからきっちり襟の形まで整ったシャツを出していたので、私は「あ、やっぱりなしで」と付けたす。
しかしノボリさんは目にも留まらぬ速さてそのシャツを丸めてギュウギュウと潰し、しわくちゃになったシャツを私の手に乗せ「お願いしてもよろしいでしょうか」と顔を赤らめた。
「ふふふ、かしこまりました」
「あまり、見ないでくださいまし…」
「そう言われると、逆に…」
「…ナマエ様」
「あはは、失礼いたしました。しっかりアイロンかけておきますから、ノボリさんは他の準備を進めててください」
そうノボリさんを部屋から出そうとしたが、動かない。
「ノボリさん?」と呼びかけてみても、返事はない。
心配になって顔を覗き込んだら、「…見ていても、構いませんか」と顔を赤くして恥じらいながら言うもんだから、私は頷くしかない。
なにが面白いのかは分からないが、ノボリさんはそれからずっと私がアイロンをかける様を見ていた。
私のシャンデラも何事かとふよふよとこちらを覗きに来たが、ただアイロンをかけているだけだと知るとまたリビングへテレビを観に戻った。
「はい、出来ました!」
「ありがとうございます、ナマエ様」
最初のようにきっちりとシワ一つないシャツを渡し、私はアイロン用具一式を片付け始める。
ノボリさんは一旦自室に戻って出勤する服装に着替えたあと、私を見て、緩みきった笑顔で 、しかも幸せそうにしているから私も思わずつられてしまった。