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ノボリさんの家にお世話になって初めての朝。
疲れていたとは言え、居候ということで無意識に緊張していたのか、普段より早い時間に起きてしまった。
寝返りをうって身体の向きを変えると、まだノボリさんは眠っていた。
「・・・あれ?」
寝返りをうったことで腰の違和感に気付く。
ノボリさんのベッドはある程度の大きさがあるため、昨日は少し離れて 寝ていたのだが、いつの間にかぎゅうぎゅうと密着している。
それも、ノボリさんに抱き締められるかたちで。
ノボリさんの大変綺麗な寝顔が近くにあって、ちょっとドキドキする。
私が最初に密着してしまったのか、または実はノボリさんに抱き着き癖があるのか、私にわかる訳がない。
まだ朝も早いしまた眠ればいいかと思い小さく欠伸をしたら、 ノボリさんが起きてしまった。
「・・・」
「おはようございます」
「・・・!!」
意識がはっきりしたようで、私を引き寄せるようにしていた手を慌てて引っ込めた。
そして真っ赤な顔で、土下座する勢いで謝ってきた。
「すみませんわたくしとしたことが・・・!あなた様にだ、だだだ抱き付いてしまうなど!ああ、穴があったら入りたい・・・」
「ノボリさん落ち着いて」
「落ち着いてなどいられますか!だいたい、ナマエ様は、 危機感というものが!」
「ノボリさんだから大丈夫だと思いまして。実際、なにもありませんでしたし、ね?」
私がそう言えば、ノボリさんは言葉をつまらせて「ナマエ様は、わたくしを信用し過ぎです」とため息を吐いた。
「そーそー、ノボリ、気にし過ぎ!」
どこからともなく聞こえてきた声に驚いてそちらを見れば、ノボリさんのドッペルゲンガーがベッドの前に座ってニコニコしていた。
「ノボリさんが・・・二人」
ノボリさんには双子の弟がいるらしい。
ノボリさんと瓜二つの容姿で違いと言えば口元くらいで、弟のクダリさんはノボリさんとは反対にずっと笑みを浮かべている。
ただ、外見が似ていても性格まで一緒というわけではなく、クダリさんは、少し子どもっぽくて人懐こい人だった。
ノボリさんが朝食を作っているあいだ、ダイニングテーブルを挟んで向かい側に座るクダリさんを見てそんなことを思って居ると、「ぼくの顔、何かついてる?」と小首を傾げた。
可愛らしい仕草が様になるなんて、羨ましい。
「ナマエちゃん、だっけ」
「はい」
「ぼくのこと、従兄弟とかノボリに聞いてなかったの? 」
「全く」
どちらからも弟がいることは全く聞いていなかった。
最初から教えておいてくれれば、クダリさんを見てあんなに驚くことはなかったのに。
クダリさんは自分が仲間外れのような扱いだったのが気に入らないのか、唇を尖らせている。
「ナマエちゃん、なんでぼくのとこにこなかったの」
「私に言われても」
クダリさんがまた唇を尖らせたところで、 ノボリさんが器用に三人分のお茶碗を運んで来た。
次々にテーブルに並べられていく朝食はテレビドラマで見るような立派なもので、私は口を開けたまま固まってしまった。
「お待たせするのも失礼かと思いまして、今日は程々にしておきました。ナマエ様の口に合えばいいのですが…」
「えっ、…これの更に上があると」
「ノボリの夕飯、もっとすごいよ」
私は目の前が真っ白になった。
は、流石に冗談だが、これからこんな凄い料理の腕を持った人に料理を振る舞うのかと考えたら憂鬱になった。
クダリさんの隣に座ったノボリさんが私の絶望した表情を察して、「何かお嫌いなものがありましたか?もしや、気分が悪いのでは…」と心配された。