ちょっとしたトラブルで荷物の到着が明日の午前中になる、と連絡がきたのは陽が傾き始め、ノボリさんがご飯支度を終えた夕方だった。
なんでも、スワンナとコアルヒーの群れが道路を占拠し、近付くと攻撃されて大変らしい。
先程、荷物が届かないことをノボリさんと話していたので、原因がわかったことで一安心出来た。
着替えや消耗品等は荷物の料金を抑えるために自分で持ってきていたので直ぐに困ることはない。
そうノボリさんに笑って話せば、私とは違い顎に緩く握った拳を当てて悩んでいるようだ。
エプロン姿でそんなポーズされたらイケメン度高すぎて直視できません。


「なにか、ありましたか?」


特に心配することはないと思い込んだ私は呑気に首を傾げる。
ノボリさんは「少し、」と呟いてまた少し間を空け私を見据えた。


「ベッドの到着が明日となれば、ナマエ様の今日寝る場所が無いのです」


「あっ」と思わず声を漏らす。
ベッドも他の荷物と一緒に業者に頼んだため、届くのは明日になる。
ということは、必然的に今日寝る場所がない。


「あ、でもソファーで寝れますし」


「大丈夫ですよ」と言う前にギロリと睨まれた。
あ、やばい。


「風邪でも引かれたらどうするのですか。暖かくなってきたとは言えまだ夜は冷えます。暖房をつけて寝たとして、エアコンで乾いた空気のせいで喉を痛める可能性もあります」

「いやでも、タオルケットあれば大丈夫ですよ」

「貴女様は暖かい地方の出身だからそう言えるのです!」

「でも、他に寝る場所無いじゃないですか!」

「わたくしの布団で寝れば宜しいでしょう!!」

「じゃあノボリさんは何処で寝るんですか!?」

「わたくしがソファーで眠ります!!」

「さっきダメって言ったのノボリさんです!!」


二人してヒートアップしていくので、最終的には息切れまでしていた。
お互いに譲る気は全く無く、しかしこのままでは会話が終わらないのでどこかで妥協策をとらなければならない。
悩みに悩んだ私が出した答えは「じゃあベッドに2人で寝ればいい」だった。


「ナマエ様、貴女はまだ嫁入り前の娘なのですよ」

「わかってますよ。でも、ノボリさんは私の保護者、なんでしょう?じゃあ、安心です」


先程のノボリさんの言葉を逆手にとれば、ノボリさんは呆れたように深いため息をついて折れてくれた。
よっしゃ、と心の中でガッツポーズ。
「冷めないうちにご飯にしましょ」と私は調子のいいことを言い、ご飯をよそるためにノボリさんからエプロンを引ったくってキッチンに向かった。

そして絶望した。
キッチンで私の目に入ってきたのは敷居の高い料亭で見るような和食の数々。
煮物のつゆをぺろりと舐めてみても、やっぱり想像以上においしい。
私はこんな美味しい料理を作る人に、毎日晩御飯を作ることになるのか。
自分の女としての自信が一気に崩れていき、テンションが最低のまま二人分のご飯をテーブルに運んだ。
ノボリさんはそんな私を心配してくれたが、理由は悔しくて言えなかった。



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