ノボリさんの家に着いた途端に急に申し訳なさを感じてきた私は、「どうぞわが家だと思ってお寛ぎくださいまし」とノボリさんに言葉をかけてもらったにも関わらずソファー下のフローリングに正座をしていた。
コーヒーを運んできたノボリさんはそんな私を見てため息を吐いた。
コーヒーを乗せたトレイを綺麗な黒のローテーブルに置き、「ナマエ様」と私と同じように正座をして向き合った。


「これからこの家はナマエ様の家にもなるのです。そしてわたくしとナマエ様は家族のようなもの。ですからあまり緊張されずに過ごして欲しいのです」

「えっと、あの」

「すぐに慣れろとは言いません。共同生活ですし、不自由に感じることもあるでしょう。その時にはわたくしもナマエ様の力になります。ですから安心して寛いでくださいまし」


ノボリさんは私が緊張していると思っているようで、力強く私の手を握って熱弁してくれる。
真剣な眼差しに思わず「はい」と言ってしまいそうになったが、私が悩んでいたこととは少し違う。
意を決して「違うんです」と話を切り出せば、ノボリさんの手の力が緩んだ。


「あの、迷惑になっちゃってないかなと思って・・・」

「迷惑、ですか?」

「だって、急にこんなお願いをして転がりこんで。しかも私とノボリさんは他人も同然なんです。今になって、申し訳なさを感じてきちゃいまして・・・」


本当は嫌だったのに仕方無しに引き受けたのでは、と思い出したら不安が止まらなくなってきた。
ノボリさんがどんな反応をするのかが着になり、ちらりと視線を彼に向けるがやはり表情は変わらないままで不安は消え去ることがなかった。
おまけに視線がぶつかってしまい、更に気まずくなる。
とりあえず何か喋ろうと思い口から出てきたのは「迷惑だったら、あの、部屋探しますし」なんて情けない言葉で死にたくなった。
しかしその言葉にノボリさんは「いけません!」と強く否定的な反応をした。


「ライモンシティはヒウンとはまた違った都会です。夜になれば危ないことも沢山あるのに、一人暮らしなど自ら危険に飛び込むような行為、わたくしは許可できません」

「いやでも、私ももう成人しますし心配ないですし・・・」

「それでもいけません。先程申し上げた通り、わたくしは貴女様の家族であり保護者となります。心配するのが当たり前です。いいですか、この家から出ていくのは、保護者であるわたくしが許しません」


ギュッと痛いくらいに握られた手。
細くて華奢に見えるノボリさんにこんなに力があるとは思っていなかった私は、ビックリして固まってしまう。
「わかりましたね?」とそれはもう凄い視線で念を押されたので、全力で首を縦に振った。
私が出て行かないと約束し、ノボリさんは安堵のため息を吐き、冷めて湯気が消えたコーヒーを私に渡してくれた。
猫舌の私には程よい温さだ。
ブラックのままのコーヒーをちびちびと飲みながら、まだ知り合って数時間しか経っていないのに私のことを親身になって考えてくれているノボリさんについて考えた。

この人はきっと、責任感が強すぎる上に人一倍心配性、そして優しいのだ。
一見真面目で冷静そうに見えるけど、本当はとても感情的だと思う。

私の女のカンだ。
まさかと思いつつも、帰宅時間とか彼氏が出来た時にものすごく大変なのが目に見えるようだった。



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