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ぼくは後悔していた。
ナマエに勢いで告白しちゃったことと、そのあと逃げたナマエを追い掛けなかったこと。
その日を境にナマエは二週間もギアステーションに顔を出していない。
はやくナマエに会いたいのにぼくはナマエのお家も知らないから、ナマエに会うことが出来ない。
はあ、とため息をついて机の上で伏せる。
構わないでオーラを出してたら、ノボリがぼくとはまた違ったため息をつきながらこっちにやってきた。
うげ、ノボリ書類持ってる。
見えないフリをしていても現実は変わることが無く、「貴方の今日の分です頑張ってくださいまし」と棒読みで書類を机の上に置いた。
「今日はちょっと・・・」
「クダリ、貴方は最近、毎日「今日はちょっと」と言っていますよ」
「うっ」
「まあ、それを言う以前からやってませんでしたね。・・・どうせまた、ナマエ様絡みでしょう」
「なんでわかるの・・・!?」
「分かり易すぎです、クダリ」
貴方が仕事のことで悩むとは思えませんからね、とノボリはぼくの机の上にあるライブキャスターを指さした。
ライブキャスターが何?
意図を探ろうとしてノボリの顔を見れば、「番号、知っているんでしょう?」とまたため息を吐いた。
多分、ぼくに呆れてだと思う。
「番号って?」
「ナマエ様の、とまで言わないとわからないのですか、クダリ」
「・・・あ!」
そういえば、ぼくナマエとライブキャスターの番号を交換したんだった!
週に一回必ず会えたし、恥ずかしくてなかなか掛けれないでいたけど、今日使わないでいつ使えばいいのだ。
さっそくナマエに掛けようと思ってライブキャスターに手を伸ばせば、ノボリによって阻止された。
そして取り上げられちゃった。
「返して!」
「ダメです。今は勤務中。貴方の休憩時間はあと2時間後です。2時間過ぎましたら、返して差し上げましょう。それまではお預けです」
「ノボリの鬼!鬼畜!仏頂面!へのへのもへじ!」
「口より先に手を動かしなさい!」
今の悪口のどれかがノボリの怒りに触れたらしく、思いっ切り怒鳴られた。
ぼくも周りにいたクラウドやカズマサもビックリして動きが止まった。
それからはみんな馬車馬のように働き、ノボリに声をかけられるまで休憩時間に入ったことに気づかなかった。
返してもらったライブキャスターを持って、今は誰も使っていない資料室へと向かう。
緊張はするけど、このままナマエと会えなくて話も出来ないなんていやだから、震える手でナマエの番号に発信する。
数回の呼び出し音の後にプツッと小さな音がして、画面に制服姿のナマエが映った。
「え!ナマエってミュージカルの受付さんなの・・・!?」
「えっ、あ、はい」
「可愛い!ナマエすっごく可愛い!」
そういえばミュージカルの受付嬢って人気があるんだよね。
散々可愛いって言った後に、なんでナマエにライブキャスターを繋げたのかを思い出して「ごめんね!」って謝った。
ナマエはクスクス笑って、「大丈夫ですよ、クダリさん落ち着いてくださいね」って優しく諭してくれた。
「あのね、ぼく、ナマエに好きって言った。あの時の言葉、嘘じゃないよ。ナマエのこと大好き」
「でも私、クダリさんが思っているような人じゃないですよ」
「ううん。ぼく気付いた。ちょっとサディスティックなナマエも、恥ずかしがり屋のナマエも両方好き。まだ見せてないとこがあるなら、ぼくに教えてほしい!ナマエのこと全部知りたい!」
ぼくの気持ちを全部伝えたら、ナマエは顔を真っ赤にして俯いた。
「返事はね、今じゃなくていい。ナマエが次にギアステーションに来て、ぼくに挑戦した時に教えて!約束!」
「・・・じゃあ、クダリさん」
覚悟しておいてくださいね、って、まだ赤い顔のナマエが笑った。