精一杯の悪口です
2012/02/14 23:37

「おらよ」

 室内には甘ったるい匂いが漂っている。
 きっと恐らく机の上に並べられた大小様々な包みがその発生源だろう。全部で幾つあるのか見当もつかない。甘ったるい。腹立たしい。何故なら此れは俺自身が持ってきたものに他ならないからである。マジうぜえ。事務所のローテーブルを挟んだソファに向かい合いながら、俺はおっさんの面食らったような表情を見ていた。否、別に意識して見ているわけではなく、目の前に座っているから、仕方なく。

「え、どしたのカルたん俺にチョコレート?」

 ソファに腰掛けて眸を瞬いたおっさんが驚いたような表情のままで問いかけた。どうしてこんなに机の上にものがあるのか分からないといった様子だ。言っておくし断っておくけど俺はこんなおっさんが小首を傾げてきょとんとしたところで全然可愛いとも思わない。寧ろうぜえ。くそうぜえ。――そんな心情をおっさん相手に隠す必要もないと思い切り顰めた面に気付いたらしい目の瞠り方をしたおっさんが口を開いた。

「やだカルたん、お前からのプレゼントとかもらえないんだけど」

 その気持ちは嬉しいけど、と続けながらはじらうように視線が逃れる

「ふざッけんな毎年毎年よくもまぁ同じネタ使って来るなおっさんよォ!?」

 そろそろキレてもいいかな。いやキレてるんだけど。
 反射的に立ち上がった俺におっさんはまぁまぁと片手を揺らす。ようやっと胸くそ悪い演技を取りやめたおっさんは、それでも楽しそうににやにやと笑っている。さっきの何も分からないと言いたげなきょとんとした顔より未だマシだ。妥協してやる。俺は元の位置に座る。しかしだからといって毎年毎年同じネタ―と言っても微妙に手を変え品を変えている―を続けるのは如何なるものか。うッぜえ。

「ははっ、悪い悪い」
「悪いと思ってねえ癖に謝るところまで毎年一緒なんだよ!」
「一緒でからかわれるって分かってて毎年此処まで来る訳だ」
「…………それ、は」

 言い淀んだ俺を前に静かにコーヒーカップに口をつけ、傾けている仕草は優雅だ。いっそ腹立たしい。言い淀んだ言葉を追及してこない辺り、分かられているのだ。それは俺でも分かっていた。痛いくらいに。畜生。今度は静かにソファから立ち上がる。

「俺だって断れるもんなら断ってんだよ!!」

 イケメン拗らせて死ね!!と―自覚のある―捨て台詞を吐いて、俺はおっさんの前からダッシュで駆け出す。荒々しく閉めた扉の向こうで、捨て台詞を吐かれた側がどんな顔をしているのか、俺に確認する術は無かった。


 そうして部屋を飛び出した後、母さんとカルミアからレイベリオさんへと持たされたチョコレートを渡しそびれたことに気付いて頭を抱えることになるのは数分後の話である。


「いつもお世話になっておりますじゃねーよ!!」


 いやその通りなんだけどよ畜生!





【 保護者から愛を込めて 】






※贈(ることにな)ったのはチョコレート。貰(うことが分かりきってい)ったのはからかいの言葉。





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