──おれね、ペンギンのこと好きみたい。 ・ ・ ・ それがナマエの告白だった。食事中にあまりにも事もなげに話すものだから一回聞き流して『そうか』と言ったのは記憶に新しい。それからしばらくして、『え?』とおれはまっすぐにナマエの顔を見たのだ。ナマエはすごくふてくされたような顔をして『好きだって言ってるのに』と言葉を繰り返した。頭の中がショートするほど嬉しい言葉だったのだが、相手は戦闘以外では気の抜けて役に立たない男、ナマエだ。その言葉が恋愛感情でないことなど想像に難くなくて『おー……ありがと、う?』となんとも反応に困ったという反応を返してしまった。しかしナマエにはそこらへんの機微は伝わらなかったようで、ふにゃっと笑ったかと思うと『じゃあおれたち恋人同士だね!』なんてとんでもないことを言って、おれの口からピラフを噴出させたのである。こいつ意味わかってんのか? というおれの驚きは至極まっとうだったようでキャプテンがナマエにつかみかかっていた。『ナマエそれどういう意味かわかってんのか! 恋人とか恋愛だとかっつーのはなァ、××されてェだとか○○されてェだとかそういうことを言うんだぞ!?』。アンタなに言ってんすか。ナマエは首を傾げていた。そうだよな、ナマエにそんな知識があるわけも『おれはどっちかって言うと△△とか□□とかをペンギンにしたいかな』…………ちょっと震えた。羞恥じゃなくて、恐怖で。ちなみにキャプテンその他各位はとんでもない悲鳴を上げていた。おれのナマエがー! なんて言って。そこでナマエは言葉を返すのである。『おれ、ペンギンのだけど』。阿鼻叫喚。 ・ ・ ・ そんなこんなでおれとナマエは晴れて恋人同士になったわけだが、基本的にはいつもと大して変わらない生活である。元々結構おれが面倒を見ていたということもあるし、ナマエは相変わらず眠るのが好きだし。気がついたら近くで寝てて、結構ビビるけど。今日も夜になって、おれが他の部屋の見回りを終えて戻ってくると大部屋ではみんな既にぐっすりだった。床に布団を敷いての雑魚寝だが、いつも寝てる場所はナマエがおれの枕なんかも巻き込んで寝ている。おいおい……これどうやって寝ろって言ってんだ? 思いながら近づくと、ナマエに足をつかまれた。びくっと身体が揺れる。眠そうな目を擦りながら、ナマエがおれを見上げる。 「ぺんぎん……?」 「ああ。ナマエ、ちょっと横開けろ」 「んー……」 頷きながらナマエは横ではなく腕を開けた。ここに入れ、という意味なのか……。こういうことすると朝絶対なんか言われんだよなァ……とは思うが、おそらく腕を避けて横に寝たところで同じ目に遭うだろう。帽子を取ってため息をつきつつ、それでも軽く反抗して後ろ向きにナマエの腕の中に収まると、ぎゅうっと抱きしめられた。おれより身長も力も段違いにあるナマエに本気で抱きしめられたら、潰れるんじゃあないかと思ってぞっとした。するとナマエがぽそっとつぶやいた。 「なんでぺんぎんこっちむいてないの」 文句と言うよりも疑問だったようで声にふてくされたような気配は感じない。「別に」と答えると簡単にくるりと反転させられた。布団の中で、ナマエのどアップが見える。そのどアップにどきどきしすぎて、周りに他のやつらがいなければやらしい方向に発展してしまうのではないかと思ってしまった。ナマエは眠さから目を細めて、ほとんどつむってしまっている。眠いせいなのか、ナマエはおれに擦り寄ってきた。そして何かの動物のようにおれの頭の匂いをすんすんと嗅いでいた。今日風呂入ってねェしやめてほしいんだけど……とは言えなかったのでさせたいようにさせていたら、「ふふふ」と笑い始めた。 「……どうした」 「ぺんぎんのにおいがするー……」 「そりゃそうだ」 おれから犬の臭いがしたら嫌だろ。ベポの匂いならまだしも、と思うが、ベポは動物だと思えないほどいい匂いがするからおそらくおれよりいい匂いがすることだろう。ナマエはふにゃふにゃと眠そうな顔で笑いながら、まず髪に、そして額に目蓋に鼻に頬に顔中に、リップ音も鳴らぬほどの触れるだけのキスをしてくる。すこしかさついた唇がくすぐったくて、身をよじる。 「ふふ、ぺんぎん、すき」 「ん、おれも好きだ」 「へへ、ちゅーしよ、」 「お前なァ……」 大部屋で周りに人がいて、誰かが聞き耳を立ててかもしれないってのに、どうしてそんなことを口に出すかな。こういうときは聞かなくてもいいんだぞ、と教えるべきか迷っているうちに、ナマエの口がおれの口に触れた。何度か押し付けられたナマエのかさかさな唇を何の気なしに舐めたらナマエの目がびっくりしたように開いた。眠いんじゃなかったのかこいつ、とおれも驚いていると、ナマエの大きな手がおれの後頭部を押さえ付けた。えっ。慌てる暇もなく、噛みつくようにキスされる。厚みのある舌がおれの舌を逃がすまいと追ってくるものだから口の中が圧迫されたみたいに苦しい。口の中の粘膜にナマエの舌が当たると、腰のあたりがぞくぞくした──ってここ、大部屋だぞ馬鹿! 急に冷静になったおれはナマエの頭をぽかりと叩く。口を離しすこし目を閉じて「いてっ」と言ったあと、ナマエは「何するの」と不満気だった。「お前こそ何してんだよ、馬鹿か」。小声で叱ればムッと眉間に皺を寄せておれを恨みがましい目で見てきた。 「誘ったの、ペンギンなのに」 「は、はあ? そんなことしてねェよ」 「やだ天然? ペンギンのえっち〜小悪魔〜」 「天然とかお前にだけは言われたくねェ」 おれがそう言えば、ナマエは唇を尖らせた。それにしてもどうやらナマエは目が冴えてしまったらしい。いつもよりも大きく開いた目は、ゆっくりとおれを見た。「目、覚めちゃった。散歩しない?」。珍しい誘いにおれは頷いた。まだ眠くもないし、ここで小声で話してみんなに迷惑をかけるよりは余程いいだろう。ナマエと共に立ち上がり、帽子をかぶってから忍び足で部屋を出る、と、ドアに押し付けられた。ナマエが笑っている。 「ここならいいんだよね?」 「え、ちょ、まっ……!」 むしゃむしゃごっくん。はめられた。いや、下品な方の意味じゃなくて、本当に。 羊の皮を被っていたのね 「抱きしめた責任はとれよ」の続編でペンギンとくっついてイチャイチャ@リュウヤさん リクエストありがとうございました! |