「ナマエ、部屋が汚れた」

「ナマエ、あれが食いてェ」

「ナマエ、今から寝るから枕」

「ナマエ、あいつムカつくよなァ?」


 ドフィの言う『部屋が汚れた』は『掃除しておけ』で、ドフィの言う『あれが食いてェ』は『三十分以内に用意しろ』で、ドフィの言う『今から寝るから枕』は『添い寝しろ』で、ドフィの言う『あいつムカつくよなァ?』は『血祭りにあげろ』だった。そんなことは別におれじゃあなくてもわかるだろうし、おれじゃあなくてもできることだけれど、ドフィがおれに頼んでくれるのが嬉しくてついついなんでも言うことを聞いてしまう。ああドフィ、おれだけの女王様じゃないけれど、みんなの女王様だけれど、おれはきみだけの下僕で居たい。……これじゃあ年の離れた妹のクセを否定しようにも「兄さんも一緒じゃない」なんて手ひどく罵られてしまいそうだ。まァ罵られたところでなんの傷もつかないし、妹とは全然違うのだけれど。


「ナマエ」

「ん? どうしたのドフィ」

「ヒマだから犬になれよ」


 『ヒマだから犬になれ』は昔からよくやっていた遊びである。おれはなんの躊躇いもなく四つんばいになってドフィの足に擦り寄った。ドフィの生足は小さい頃から綺麗だなァ。もし傷だらけになってもそれはそれでいいのだろうけれど、だってドフィの足だし。クンクンと情けない声を出しながら擦り寄るおれの滑稽な様を見て喉の奥で笑うドフィは可愛い。とてもかわいいものだから、結構いい歳してもこんなことくらいで勃ちそうになる。これでも自制心はある方なので抑えることはできるが、あまり精神衛生上はよろしくない。ああ、そういえば今は犬だし、犬が飼い主に欲情なんて獣姦になってしまう。


「ナマエ、」


 ドフィに名前を呼ばれて顔を上げる。なんだろう、吠えろとか? それともお手? おかわり? 指示されるのを大人しく待っていると、ドフィの腕が伸びてきて、喉を撫でられる。心地よい指先に目が細まる。あー、幸せ。
 そんなふうにしていたら喉をぐっとつかまれた。ドフィの力じゃ気管が絞まることも動脈が絞まることもない。別に絞まったってどうということはないけれど。ちりちりとした痛みと共にドフィの爪がおれの皮膚に食い込んでいく。ああ、せっかく手入れして綺麗にしてるのに。ドフィの気が済んだらまた手入れをしよう。がり、という音とともにおれの首から皮膚が少し持って行かれた。楽しそうな顔のドフィの手が離れていって、その爪が赤に染まっていた。ドフィの方が怪我したんじゃないかと慌てて手をつかむ。爪が欠けたりしていないかを確認して、ほっと一息。ドフィはニヤニヤ笑っていた。


「おいおい、犬のくせに腕をつかんじまうのか?」

「……」

「あ、って顔してんなァ、馬鹿犬め」


 おれの手が緩んだ瞬間、その血のついた指をおれの口に突っ込んだ。綺麗にしろってことだろう、と思って丹念にドフィの指を舐める。皺ひとつひとつ、爪と肉の隙間まで全部全部舐めつくしたい。あまりに集中しすぎて、ドフィの指がふにゃふにゃのしわしわになってしまった。さっきのおれの血だったのになァ、ドフィの手だと思うとどうにもこうにも興奮を抑えきれなくなってしまうようだ。


「舐めすぎだ、ナマエ。……ふあ、眠くなってきた……運んでくれ」

「了解、お姫様」

「お姫様じゃなくて、女王様だぜ」

「ああ、そうだった」


 如何せんおれはドフィのことをお姫様として扱っていた期間がとても長かったから仕方ないだろう。ドフィも別に怒りはしないし、直す気も特には起きていない。椅子に座っていたドフィの背中と膝の裏に手を回して抱え上げる。あれ、軽くなったか? うーん、飯もちゃんと食べてるし何がいけないんだろうか。もうちょっと栄養価について考えなければならない、シェフと相談した方がいいかも。そんなことを考えていたらべちんとドフィがおれの顔を叩いた。むすっとした顔をしていて可愛い。


「おれ以外のこと考えるな」

「ドフィ以外のことをおれが考えたことあると思うの?」

「……ねェか」


 あるって言ってくれたらじゃあドフィのことだけ考えさせてって襲っちゃおうと思ったのに、納得されちゃうとは。うーん、惜しいことしちゃったかな。でも眠いって言ってるドフィを襲うのもどうかと思うし、今日のところは諦めるしかなさそうだ。ドフィをベッドに下ろして掛布団をかけようとしたら腕をつかまれた。


「ナマエ、枕」

「ん、わかった」


 ドフィと同じベッドで寝ることは珍しくもないし、そのつもりっちゃそのつもりだったからいいんだけど、今は若干ドフィに興奮してるんだよなァ……いい大人だから自制するけど大人じゃなかったら、襲ってたと思う。ソウイウことって結局女の方に負担が掛かるし……大人にならなきゃ知らなかったことかもしれない。ドフィの横に寝そべって彼女のサングラスを外すとドフィが眩しそうに眼を細めた。髪の毛に指を通して頭をなでると、気持ちがいいのかドフィが擦り寄ってくる。……ブラもしてない胸があたるという、なかなかにスリリングな気持ちを味わっているのだが、ドフィはもうおねむだ。そんな可愛い顔で寝ないでほしい。本当に、襲ってしまいそうだ……。

ちょっとした地獄

ワガママを何でも聞いてくれる男主×女体化ドフラミンゴ幼少期からの話@匿名さん
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mae:tsugi

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